ご質問への回答

2011年4月26日 (火)

適正在庫水準とプロ野球 3時間半ルールの関係

4月19日に開催した日経ビジネススクール「ビジネスに役立つ会計の基本」の受講者の皆様、ご多忙の中、ご参加いただきありがとうございました。

先日、受講者の方から質問をいただきましたので、他の受講者の方々のご参考に当ブログにて再掲しておきます。

セミナーの最後で「在庫を減らす意味」を会計的視点から説明したのですが、「では、具体的な適正在庫量について、どうやって決めればよいか」というのが質問の主旨であります。

在庫水準についての教科書的な解答としては、生産管理領域において用いられている各種算式があります。例えば、安全在庫量は、

安全在庫=安全係数×時間当たり需要量の標準偏差×√リードタイム

といった計算式が有名です(情報処理技術者試験の問題によく出る論点ですので、ご存知の方も多いと思います)。

また、会計的に在庫水準を決定する手法として交叉比率を用いる方法などもあります。

 交叉比率 = 在庫回転率 × 粗利率
         在庫回転率:売上高÷在庫金額
     粗利率:粗利÷売上高

しかし、いずれの方法で在庫量を決定したとしても、在庫削減は販売時の機会損失や製造時の納期遅れといったリスクと常にトレード・オフの関係にあるため、在庫削減だけで効果を上げることはできません。

在庫量の削減だけではなく、在庫管理プロセス自体の変革が必要になるのです。
その結果、上式におけるリードタイムが改善され、結果として在庫水準の低下をもたらされるのが理想です。

類似の事例として、今期のプロ野球に導入された3時間半ルールが参考になると思います。
これは、震災による電力不足に対応するために導入された、「試合開始から3時間半を経過した場合、新しい延長回には入らない」というルールです。

http://www.npb.or.jp/npb/20110411release.html

試合時間に上限を設けることによって電力節約を目指しているのですが、電力節約という目的からみた場合、その効果は極めて限定的です。

むしろ重要なのは、試合時間自体の短縮。つまり、試合のプロセスの見直しです。
簡単に思いつくだけでも投手交代時の投球練習数の削減や、イニング交代時に走って移動するなど、改善事項は多く見当たります。
これらプロセスにメスを入れず、試合時間の上限値だけに制限を設けている今回の対策は、少し滑稽な印象さえ受けるのではないでしょうか。

在庫管理においても同様に、在庫量だけに注目するのではなく、在庫管理プロセスの見直しを進めることが肝要でしょう。

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2010年1月29日 (金)

工事進行基準の法人税法上の扱い

1月26日の日経ビジネススクールで開催した、「IFRS(国際財務報告基準)導入による会計システムへの影響と対策講座 」の受講者の皆様、ご多忙のところ、ご参加いただきありがとうございました。

受講者の方から、ご質問をいただきましたので、この場をお借りして補足しておきます。

ご質問は、「法人税法上、工事進行基準の適用対象を判断する際の、支払条件に関する基準は、どのようなものか。」というものです。
当該条件の根拠条文は法人税法施行令第129条第2項の以下の記述になります。

「 法第六十四条第一項に規定する政令で定める要件は、当該工事に係る契約において、その請負の対価の額の二分の一以上が当該工事の目的物の引渡しの期日から一年を経過する日後に支払われることが定められていないものであることとする。」

また、詳細については、拙書「ソフトウェア業における工事進行基準の実務」(中央経済社)「第Ⅲ章 工事契約の税務上の扱い」も、ご参照いただければ幸いです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年6月 2日 (月)

ご質問への回答 

日経BIZ Plusの「マーケティングと会計の接点」についていただいた質問を、最近、BlogにUpしていませんでしたので、主なものを、まとめてご回答しておきます。

第17回「ライバルを探れ ~有価証券報告書~」(2008/04/11)
http://bizplus.nikkei.co.jp/genre/eigyo/rensai/iwatani2.cfm?i=20080404ed000ed

(質問1)事業報告書と有価証券報告書は違うのか。

(答え1) 違います。
会社の株主には、決算期ごとに事業報告書が送られてきます。この事業報告書と有価証券報告書に記載されている決算書の諸数値は、同一のものですが、決算書以外の記載事項の範囲や精緻さが異なります。当連載で取り上げている事項の多くは、有価証券報告書のみに記載されている事項です。

(質問2)会社のHPに有価証券報告書がない。

(答え2) EDINETから入手してください。
http://info.edinet-fsa.go.jp/

近年、上場会社の有価証券報告書は、その会社のHPから入手できるようになっていますが、一部の企業では、自社のHP上で有価証券報告書を提供していない会社もあります。その場合には、EDINETを利用して入手してください。

第18回「ライバルはいくらで作っているのか ~製品(Product)と会計の接点~」(2008/04/25)
http://bizplus.nikkei.co.jp/genre/eigyo/rensai/iwatani2.cfm?i=20080423ed000ed

(質問3)個別財務諸表を使う理由がわからない?


(答え3) 個別と連結のどちらを利用するかは対象会社のグループ経営の状態による。
ただし、製造原価明細の開示は個別財務諸表のみになります。

個別と連結のどちらを使用すべきかは、対象会社のグループ形態によります。連結財務諸表よりも個別財務諸表の方が開示事項が詳細のため、個別財務諸表が利用できる会社についてはそちらを利用したほうがよいでしょう。

P.S こちらもよろしくお願いします 「国語 算数 理科 しごと」

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年8月27日 (月)

「∩」の意味について

日経BizPlusに連載中の「マーケティングと会計の接点」にいただいた質問に、この場をお借りしてお答えしておきます。

質問の内容は、第1回のコラムのQuestionの中にある「儲けたい人∩儲けたくない人」という表現中の「∩」って何ですかというものです。

これは、「キャップ」と呼んで積集合(複数の集合の共通部分)を表す記号です。詳細については、下記Wikipediaもご参照ください。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A9%8D%E9%9B%86%E5%90%88

実は、自分も原稿を書いたときに、この記号を使っていいのかなと思っていたのですが、日経の編集の方の校正も入らなかったので、そのまま掲載してしまいました。

自分は、中学校ぐらいで習った記憶があるのですが、最近は世代によって学校の教育課程も異なるので、既に学校では扱っていないのかもしれません。ちなみに、私の小学校の社会の教科書の最後のページは、田中角栄首相が日中国交正常化した際の写真が使われていた時代ですので、ご容赦ください。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年6月 7日 (木)

新しい四半期報告?

先日、内閣府令案をご紹介した際に、「新しい「四半期報告制度」」という表現を用いたのですが、既に四半期報告制度は始まっているのでは?という質問をいただきました。

いただいた御疑問も、もっともでありまして、実務上の感覚では四半期報告は既に始まっていると思われている方々が多いのではないでしょうか。

実は、現在、行われている四半期開示は東京証券取引所等の各取引所の規則によるもので、法令等で定められたものではありません。
それに対して、今回、内閣府令案が出された四半期報告書は金融商品取引法という法律で定められたものです。したがって、監査法人によるチェック(レビュー)の対象にもなり、従来以上に、高い精度が求められるのです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年2月14日 (水)

財務会計 丸わかり 「ソフトウエア会計」 質問事項

日経SYSTEMS誌(日経BP社)2月号の「財務会計丸分かり」実践編 第5回 「ソフトウエア会計」について、いただいた質問について回答します。

ご質問の内容は
「パッケージソフトウエア作成時の会計処理で、製品マスター完成時点とは、どのような状況を指しているのか」というものです。

ご指摘の通り、この「製品マスター完成時点」が、どのような状況を指しているのかは、大変難しい問題です。そこで、今回は、会計基準において、どのように定義されているかをご紹介します。

「研究開発費及びソフトウエア開発の会計処理に関するQ&A」のQ10に以下のような質問があります。

「Q10 :市場販売目的のソフトウェアの制作費について,費用計上と資産計上に関する区分は何に基づいて判定するのですか。」

その答えは
「実務指針では,最初に製品化された製品マスターの完成時点の具体的な判断基準として,機能評価版のソフトウェアであるプロトタイプの制作の有無によって,次の要件を検討すべきであるとしています。
① 製品性を判断できる程度のプロトタイプが完成していること
② プロトタイプを制作しない場合は,製品として販売するための重要な機能が完成しており,かつ重要な不具合を解消していること」

わかったような、わからないような回答ですが、とりあえず会計基準における判断の基準は、上記の通りです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年1月23日 (火)

財務会計丸分かり 実践編第4回 質問事項

日経SYSTEMS誌(日経BP社)に連載している、「財務会計丸分かり」実践編 第4回 「決算処理」(2007年1月号掲載)にいただいた質問事項について、ご回答します。

今回のテーマは「決算処理」ということもあり、ご質問者固有の問題に関する質問が多く、当ブログで紹介するのに適当なものは少なかったのですが、その中からひとつ、ご回答しておきます。

ご質問の主旨は「月次決算は多くの会社で実施されていますが、その実施を強制する法律はありません。」という記載に対して、ならば、本当に月次決算を止めても良いのかというものです。

回答としては、「止めるか否かは会社の判断による(ただし、上場会社を除く)」というものになります。
本文中で記載したように、月次決算は法律で定められたものではなく、管理会計領域の問題ですから、それを行なうか否かは経営者の判断で決めることができます。管理上は行なう方が望ましいのは当然ですが、実施するのがMUSTというわけではありません。

一方、上場会社においては、止められない理由があります。それは、法律の定めではありませんが、各取引所の定める上場審査基準において「経営管理組織が適切に整備、運用されている状況にあること」が求められているからです。
この経営管理組織の中には、各種予算制度の運用も含まれており、その運用実態は上場時の審査事項になっていますので、月次決算を省略するわけにはいかないのです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年12月26日 (火)

これならわかる日本版SOX法と内部統制 第12回 補足の補足

先日(12月25日)掲載した、「これならわかる日本版SOX法と内部統制 第12回 補足」の内容について、メールにてご質問をいただきましたので、この場をお借りして回答しておきます。

質問のポイントを私なりにまとめてみますと、
「今回の実施基準(公開草案)で定義している「重要な欠陥」のどこが不十分で、ならばどうすればよいのか」
といったところでしょうか。

まず、不十分と感じた部分ですが、例えば、公開草案の「Ⅱ.3.財務報告に係る内部統制の評価の方法 (4)内部統制の有効性の判断 ①全社的な有効性の判断 ハ. 全社的な内部統制に不備がある場合」に重要な欠陥となる全社的な内部統制の不備の例示があります。
簡略化して記せば以下のようなものです。
a 経営者がリスクの評価と対応をしていない
b 取締役会等が内部統制の整備運用を監督・監視・検証していない
c 内部統制の有効性を評価する責任部署が明確でない
d ITのアクセス制限に不備がある
e 内部統制の整備状況に関する記録を欠いている
f 報告された不備が改善されていない

上記5つのうち、a,b,cに該当する会社はほとんどないと思われますし、反対にdを完全に行っている会社もありえないと思います。例示による基準のハードルが、高すぎるものと低すぎるものの両極端しか提示されていないため、実務の参考になりづらいと感じた次第です。

次に、「ならばどうすればいいか」ということになりますが、この回答はかなり難しいです(当然、委員の方々も様々なご検討をされた結果ですので)。
また、法令や基準というものは、特定の事象を例示等によって具体的に定義したほうが利用者には使いやすいのですが、そうすると「それ以外ならば、その事象に該当しない」と考えて脱法的な行動をとる人々が現れるため、条文上では抽象的に定義せざるを得ません。
ひとつのヒントとして、米国における内部統制監査の基準であるPCAOB のAuditing Standard No2では、重要な欠陥を直接定義するのではなく、「重要な欠陥の存在を示す事例」”strong indicator”を例示するというアプローチをとっています。

十分なご回答になりませんでしたが、本日は、こんなところでご了承ください。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年12月12日 (火)

財務会計丸分かり 実践編第3回 質問事項

日経SYSTEMS誌(日経BP社)に連載している、「財務会計丸分かり」実践編 第3回 「会計帳簿の仕組」(2006年12月号掲載)への質問事項についてご回答します。

連載を続けてきてわかったことは、読者からの反応は、内容の難しさに比例しているということです。やはり、わからないところが気になる方々が多いということでしょうか。
一方、見方を変えれば、私の表現が未熟ということでもありますので、この場を利用してできるだけ補足していきたいと思います。

今回の会計帳簿は、なじみが薄い領域ですので、理解しづらかった方々が多かったようです。多くのご質問は、「そもそも、会計帳簿とはこういうものではないだろう」といった主旨のものです。
いわゆる「簿記」によって段階的に転記を行っていく帳簿組織の感覚と、今回の説明方法にギャップを感じられたようです。ご質問のとおり、本来の帳簿組織とは「簿記の世界」における概念であることは間違いありません。
今回の連載は、読者対象であるSEの方々の理解を助けるためのものですから、今回の説明に違和感をもたれた方々については、従来からの考え方を変更していただく必要はございません。

また、本文中のSQL文では、記載したような帳票はできないという指摘を多く(特に身近な方々より)いただきました。これも、ご指摘のとおりでございます。本文中のSQL文は貸借の区分を考慮していないため、貸借が合計されてしまいます。
図中の注釈に付した「借方・貸方を考慮した上で金額を合計すると」という一文でご容赦ください。貸借区分を考慮したSQL文を記載すると、今度はSQL文の意味がわからなくなってしまうため、敢えて省略した記載にした次第です。

その他にも、ご疑問等ございましたら、お気軽にご質問ください。
また、申し遅れましたが、当ブログに氏名、その他、ご質問者の素性に関わる情報を記載することはありません。また、質問内容自体の記載も望まれない場合にはその旨を記載して、メールをご利用いただければお約束は遵守いたします。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年11月14日 (火)

これならわかる日本版SOX法と内部統制第9回 質問事項

日経BizPlusに連載している「これならわかる日本版SOX法と内部統制」の第9回分「対応業務の全体像  ~やるべきことは何なのか~」への質問事項にお答えします。

今回、同様の主旨のご質問をいただいたのですが、本文中の

これをもって、「財務報告部分だけやっておけばいい」ということでもなく、さりとて「財務報告部分といった区別を意識せずに整備を進めればいい」というものでもありません。

この部分を、実際のところどのように考えればよいのかというものでした。

文章にして表現するのは、なかなか難しいのですが、実務的には、総花的なアプローチによって「アブハチ取らず」になることが、最も危惧されるのではないでしょうか。(簡単な答えですいません)

| | コメント (0) | トラックバック (0)