書評

2020年1月31日 (金)

【書評】岡田メソッド -この一冊で日本が変わるか?

本日は、昨年末に発売された元サッカー日本代表監督 岡田武史氏による『岡田メソッド』 (英知出版)をご紹介します。
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先日、地下鉄で隣に座った方が大きな本を読んでおりまして、内容が気になってのぞき見したのが本書でした。さっそく購入して読んでみたのですが、サッカーに興味のない方にもお勧めできる内容でしたので当ブログで取り上げる次第です。

岡田氏は、現在、サッカー監督の立場を離れ、今治FCのオーナーとして活動していますが、本書は、岡田氏が今までの経験から導き出したサッカー指導の方法論を体系的にまとめたものです。

・自立した選手を育てるために
本書の執筆意図について、まえがきに次のように記されています。(7ページ)

日本人を見ていると、自分の人生は自分で選べるにもかかわらず、周りや環境のせいにして選ぼうとしないと感じるときがあります。ひょっとすると日本人は、もともと自分の人生を主体的に生きることが苦手なのかもしれません。それでも、私は心に決めました。

「サッカーの世界で、それを変えられないだろうか?
主体的にプレーする、自立した選手を育てられないだろうか?」(中略)

「日本人が世界で勝つための<プレーモデル>を作り、16歳までにそれを落とし込んで、あとは自由にするチームを作ってみたい」

自立した選手と自立したチームを作るために、サッカーにおける1つの「型」としてまとめたものが「岡田メソッド」なのです。

・サッカーの分析ができるようになる
上述の通り、本書はサッカーのコーチやプレイヤー向けの指導書ですが、試合観戦を中心とした一般のサッカーファンが読まれても、サッカーをより深く理解できるようになります。
コーチが選手に何を指導するかを決めるためには、選手に欠けている点をつかまなければいけません。そのために第7章「ゲーム分析とトレーニング計画」が設けられています。
この章では、ゲーム分析のフレームワークが示されています。このフレームワークとチェックリスト(196ページ)を参考にしながらテレビを見れば、今まで以上にサッカーを楽しめるはずです。

近年、サッカーの戦術論については様々な専門書が出ており、一般の方々も多くの知識をお持ちだと思います。
本書を読まれる際に注意していただきたいのは、本書は岡田氏の実践の結果をまとめたものであるため、一般に使われている用語と異なる用語が使われている点です。
例えば、試合の攻守が変化する局面を、近年ではネガティブ・トランジション(攻撃から守備)、ポジティブ・トランジション(守備から攻撃)と表現することが多いのですが、本書では各々を「ボール・ロス」「ボール・ゲット」と表現しています。
これ以外にも「ガス」「ドック」など本書独自の概念が数多く登場します。
ただし、この点については編集サイドも認識しており、専用の用語集が別添されていますので、こちらを参照しながら読まれればよいでしょう。

・マネジメント本として読める
本書を当ブログで取り上げた最大の理由は、本書はマネジメントの指南書としても秀逸だからです。
岡田氏はサッカー監督退任後、多くの経営人との交流を進めており、そこから得られた知見が本書にフィードバックされています。執筆意図が「主体的な行動を促す」ことですから、経営との共通点が多いのも当然かもしれません。
第8章「コーチング」の第3節「リーダーとは」(260ページ)の文章は、組織で働かれているすべての人々を勇気づける名文です。
(ちなみに、戦後日本人の中で、最大のプレッシャーに遭遇しそれを克服したのは、フランスW杯予選の岡田氏と長野五輪の原田雅彦選手でしょう。私はプレッシャーに負けそうな時に、ジョホールバルのラーキンスタジアムと豪雪の長野のジャンプ台を思い出すようにしています)

本書を読み終え、あとがきを読んでいると、そこに書かれている担当編集者が、以前、仕事をご一緒した方だったので驚きました。
その方は、ビジネス書の出版社に勤めながらサッカー書籍を編集するのが夢とおっしゃっていまして、それが実現した際に献本もいただきました。

「ワールドカップが夢だった。」

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あれから15年、今後のサッカー界に、さらにインパクトを与える作品が生みだされました。
私が長々と駄文を連ねるよりも、編集者ご本人が本書の製作過程をnoteにまとめられていましたので、こちらを参照していただいた方が良いでしょう。

「岡田武史さんがサッカーを理論的に体系化したー書籍『岡田メソッド』ができるまで
https://note.com/f30103/n/n844303bb2c0c

本書の帯文には、まえがきから次の文章が引用されています。

「プレーモデルが確立されればW杯で優勝を争う日が来ると本気で信じています。」

これは、絵空事ではありません。
私が紹介するまでもなく、既に本書は多くのサッカー指導者や選手達の手に届いているはずです。彼らひとりひとりが、この知識を共有し、それを次世代の選手たちに伝えていけば、我が国のサッカーのレベルは必ず変わっていくでしょう。

1冊の本が未来を変えていく。本の持つ可能性が感じられる稀有な1冊です。

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2019年12月13日 (金)

【書評】「経理」の本分

公認会計士の武田雄治先生から新刊 『「経理」の本文』を献本していただきました。

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本書は上場企業の経理部員の方々を読者対象とし、経理部門の存在意義や業務内容をまとめた1冊です。

タイトルの印象から、経理部員としての心得などの精神論中心の書籍と思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、むしろ内容の多くは経理業務を効率化するためのノウハウ集になっています。

具体的な手法に言及する第3章から第4章は、通常の経理実務の書籍とは異なり、ディスクロージャー制度への対応が前提となる上場企業特有の論点を含んでいるのが特徴です。

第3章 経理部の日常業務とは -日常的に経理部員は何をすべきかー
第4章 経理部の決算業務とは -ディスクロージャーのために経理部員は何をすべきかー
第5章 経理部のサポート業務とは -経営をサポートし、企業価値を高めるために経理部は何をすべきかー

特に第4章 「経理部の決算業務とは」は、作者が今まで執筆してきた決算早期化書籍(「決算早期化の実務マニュアル」等)のエッセンスがまとめられており、この章だけでも定価以上の効果が得られることは保証しておきましょう。
(書籍の値段の2千円など、残業1時間分にすぎないんですからねえ。この第4章のルールを社内で徹底できれば、その数百倍の時間は削減できるのでは)

一方、作者の意図は単にノウハウを伝えるだけではなく、経理部員としてのマインドセットの提示にあるのでしょうから、私も、本書が示す経理部門のあり方を、過去の2冊の書籍と比較しながら読んでみました。

一冊目は、昭和50年代(1970~80年代)の高度成長・インフレ時代に著された井原隆一氏の「財務を制するものは企業を制す」 (PHP文庫)です。
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井原隆一氏は、かつての埼玉銀行で経理部門を支え専務を務められた実務家で、言い切り調の文体が昭和の頑固親父を連想させます。

もう一冊は、会計ビックバンと呼ばれる、我が国の会計制度改革が進められた2002年に刊行されベストセラーとなった金児昭氏の「教わらなかった会計」(日本経済新聞社)です。

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金児昭氏も信越化学の経理部員としてキャリアを重ね同社の常務取締役まで昇りつめたバリバリの実務家です。本書のヒット以降、2013年に亡くなられるまで100冊(!)を越える著作を残しており、ビジネス書籍の一時代を築いた作家と言えましょう(ちなみに、私の日経での担当編集者は「教わらなかった会計」を編集した方だったため、金児氏にまつわる愉快なエピソードも色々教えていただきました)。

経理部門の目指す方向性として、単なる集計係ではなく現業部門のサポート部門へ進化すべきという点は3者に共通するものです。
むしろ、この時代が異なる3者の主張に変化や違いがあるのかに注目しながら読み返してみると次の2点に気づきました。

1 コンプライアンス意識の変化

井原氏の著作には次のような表現が出てきます。
「会社を食う白蟻 -公私混同」(p116)
「社用族が会社を斜陽にする」(p120)
まさに、植木等の無責任シリーズの感覚で昭和の時代には一般的なものだったのでしょう。

また、金児氏も経理の役目として資産の保全を重要なポイントしてあげており「必死の覚悟で会社の財産を守ること」(p17)と表現しています。これは、株や投資信託などへの投資を戒めることと合わせて説かれており、まだバブルの痛手が消えていないことがわかります。
当然ながら、現代の経理部門においても資産の保全は重要な業務の一つですが、内部統制制度の整備と世の中のコンプライス意識の高まりから、資産保全のウエイトは経理部門というよりは全社的な役割に変化していることを感じました。

2 経理業務の存在意義の変化

現代の経理業務は、 「AIに業務を奪われてしまうのではないか」つまり、業務の存続可能性が話題となっており、武田氏の問題意識にも表れています。
これは、経理部門の存在自体は当然の前提となっていた井原氏、金児氏の時代にはなかった視点であり、昨今、公認会計士協会もこんなビデオを作成しています。
「公認会計士のしごととAI」

武田氏は第6章の中で経理部員のための7つの心得を上げていますが、その中で
心得10 自社のストーリーを描け
心得11 わかりやすく表現するプレゼン力を身に付けよ
といった内容は、従来、経理部門の業務範囲とは考えられていなかったものです。

技術革新によって業務形態が変化していくのは、蒸気機関が発明された産業革命の時代から続く必然であり、特に騒ぎたてるようなものではありません。
今では鉄道の改札口に切符切りの鉄道員がいなくなったように技術革新によって従来の単純労働から解放されるのは、むしろその業界にとって望ましいことでしょう。
ただし、その変化に気づかないままでは自らの業務の存在意義が危ぶまれる状況にあるのも事実です。

では、今後、我々、会計に関わる人間が進むべき領域はどこなのでしょうか。
従来の会計基準は会計実務から演繹的に作成されていましたが、IFRSをベースとした現代の会計基準は、理論からスタートする演繹的な手法で開発されています。
その結果、外部開示用の制度会計と内部で利用する管理会計領域の乖離が年々大きくなっています。例えば新しい収益認識基準は、社内の管理指標として使いようのない代物になっています。
我々、特に上場企業の会計に携わる部門の活動は、この制度会計と管理会計の乖離をどのような方法で埋めていくのかという領域に移っていくのだと、私は考えています。

武田氏の著作の書評から、かなり離れてしまいましたが、経理部門も昭和、平成の時代を越え、あたらしい令和の時代を迎えたことを感じる一冊でした。

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2018年10月30日 (火)

【書評】『会社を売りたくなったら読む本』

PHP研究所の編集の方から、企業売却コンサルティングを行っている坂本利秋氏の『会社を売りたくなったら読む本』を献本いただきました。

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本書は中小企業の経営者の方々向けにM&A(特に企業売却)の一連の手続きと留意点をまとめたものです。

第1章 会社の売却を考える
第2章 失敗しない業者選び
第3章 買い手企業を募る
第4章 買収監査の受け方
第5章 売却価格や条件を交渉する
第6章 売却価格を算出する
第7章 少しでも高く売却する方法

企業買収の過程では、買い手企業による買収調査(いわゆるデューデリジェンス:DD)が行われます。通常、財務DDは、3,4名の公認会計士がチームになって売り手企業に直接うかがって実施します。
しかし、このDDの段階では、まだ従業員に事業売却を進めていることを公にしていないケースが多いため、その際の対応方法として次のような記述があります。

多くの場合、公認会計士は地味なスーツを着ているため、銀行員のように見えます。社員に不安を与えずに信用してもらうために、「分散している借入れをメインバンクに一本化するため、銀行から調査が入る」とか、「販売先による新規設備投資の検討のために調査が入る」「対外信用力を上げるため、ごく部分的な資本提携を検討している」などと説明しておけば、違和感がないでしょう。」 (本書 84ページより引用、太字は筆者加筆)

この指摘はなかなか的を射ておりまして、確かに会計士と銀行員の区別は一般の方々には難しいかもしれません。
(あえて違いを言えば、大きなカバンを持っているのが公認会計士です)

現在、日本テレビで水曜夜10時から放映しているドラマ 「獣になれない私たち」 では、主人公の松田龍平さんが公認会計士を演じています。

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かつて、会計士関連のドラマとしては、NHKの「監査法人」や「渡る世間は鬼ばかり」でえなり君が会計士を目指すなどの事例がありますが、トレンディドラマ(既に死後か?)で、主役の職業が公認会計士というのは、このドラマが初でしょう。

一般の方々からみると、
「ドラマに出てくるような松田龍平さんのような会計士なんているのか?」
というような疑問が沸くかと思われますが、今の20代、30代の会計士の中には松田龍平さん並みのルックスの先生はたくさんいらっしゃるというのが私の印象であります(ただし、髭を生やしている先生は稀)。

それは同時に、公認会計士だけではなく、銀行員の方も同様でしょうから、結局、先ほどの記述は、40代以上のオヤジ会計士と銀行員にのみ当てはまるというのが適切かと。

M&A関係の書籍は専門書が中心になるため、売却価格算定のための複雑な計算式や税務上の専門用語が多く出てきます。
しかし、本書には仕訳も複雑な計算式も出てきませんので、事業売却に興味を持った経営者の方が最初に読まれる本としてふさわしい1冊でしょう。

【書評】『会社を売りたくなったら読む本』

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2018年6月 6日 (水)

【書評】『教養としての「税法」入門』

日本実業出版社の編集の方から、弁護士で現在青山学院大学法学部の教授も務められている木山泰嗣先生の 『教養としての「税法」入門』 (以降「税法入門」)を献本いただきました。

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私が、木山先生の著作を初めて手にしたのは2014年に光文社文庫から刊行された 『弁護士が教える分かりやすい「所得税法」の授業』 でありまして、近年の新書が読み易さを重視した「軽い」本が多い中、木山先生の書籍は、やわらかい語り口とは裏腹に、しっかりした内容なのが印象的でした。

今回の書籍も同様で、一般に実務書と呼ばれるジャンルでありながら判決文の引用も多く、さらに詳細な注釈も付されています。

前書きに
「単にわかりやすいということではなく、大学の授業でしっかり学んだような実感をもてる「読み応えのある本」にしようと、担当編集者と話しながら作りました。」
という記載がありますが、その編集意図通りの作品に仕上がっています。

税法の全体像を重要な判決事例を参照しながら解説していく手法は、初心者の方でも興味をもって読み進めていけるでしょう。

具体的には
約1,300億円の贈与税が争われた「武富士事件」
サラリーマンの給与所得控除について争われた「大島訴訟」
戦後最大の税務訴訟となった「ストック・オプション訴訟」

などを取り上げつつ、全体は以下のように構成されており、まさに大学の講義どおりの内容になっています。

第1章 税法の歴史とは
第2章 税法の重要判決にはどのようなものがあるか?
第3章 税法とはそもそも何か?
第4章 税法の基本原則を知ろう
第5章 税法の解釈とは?
第6章 税法の制度を押さえよう
第7章 不服申立て・税務訴訟とは?

本書を読んで思い出したのが、元長野県知事 田中康夫氏のデビュー作 「なんとなく、クリスタル」 (以降「なんクリ」)です。

1981年、バブルの少し前に刊行されベストセラーになった「なんクリ」は、本文の内容よりも本文同様のボリュームを持つ脚注の面白さが話題になりました。
実際、脚注部分だけを読んでも、それなりの音楽通(今では死語となったAORというジャンルですが)になれるという仕掛けが組み込まれていたのです。

今回取り上げた「税法入門」は、まったく異なるジャンルですが、脚注の充実度は「なんクリ」に負けていません。

318ページに及ぶ書籍の1/3は詳細な注釈ですので、まず、最初に注釈部分を割愛し本文部分だけを読み進めるのがよいでしょう。
本文を読み終わった後で、脚注部分だけを読み進んでいっても、税法の様々なトリビアが身に付きます。

聞くところによれば、本書は昨年8月の刊行から既に5度の増刷、累計1万部を超える売上を上げているそうです。
現在の出版環境において、これだけ硬派な作品が、このような実績をあげているという事実はビジネス書を著す者としても大変勇気付けられるニュースです。
今後も税法入門のスタンダードとして永く読まれ続ける一冊でしょう。

【書評】『教養としての「税法」入門』

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2017年11月 9日 (木)

「西郷どん」の副読本として -書評「島津久光の明治維新」-

作者の安藤優一郎氏から新刊 『島津久光の明治維新』 (イースト・プレス)を献本いただきましたので、本日は、こちらを紹介します。

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本書の執筆意図を前書きから引用します。

「一般的には西郷や大久保の言動が薩摩藩の立場や意見を代表するイメージが強いが、二人の言動は必ずしも薩摩藩を代表するものではなかったのである。藩士の大半そして島津家は倒幕路線には反対で、倒幕を強く主張する西郷や大久保たちは藩内で孤立していたからだ。」

「本書は明治維新150年を迎えるに際し、倒幕派の西郷や大久保が主役として描かれがちな薩摩藩の明治維新史を島津家(島津久光)の視点から読み解くことで、維新の再評価を試みるものである。」

私自身、日本史についてはまったく素人でありまして、島津久光という名前を聞いても「龍馬伝」に出てきた西郷隆盛の政敵という程度の知識しか持ち合わせておりませんでした。

したがいまして、本書を読むまでは薩摩藩と長州藩は倒幕でイケイケで、土佐藩の山内容堂(龍馬伝で近藤正臣が演じていた)が反対派と思っていたのですが、薩摩藩においても武力行使を伴う倒幕には反対する者が大勢だったと知りました。

そのような情勢からどのようにして明治維新が進んでいったかを理解するためには、明治維新における西郷隆盛の位置付けではなく、薩摩藩における西郷隆盛の位置付けを知る必要があり、そのためのキーパーソンが薩摩藩の島津久光になるわけです。

歴史書としての本書の意義をお伝えするには、私の知識はまったく役に立ちませんが、安藤氏と同じ作者という立場から本書を見てみると違う局面が見えてきます。

来年は明治維新150周年にあたり、それに合わせてNHK大河ドラマも西郷隆盛を主人公にした「西郷どん」と決まっています。
(ちなみに「西郷どん」の原作者 林真理子氏は現在、日経新聞朝刊で「愉楽にて」といいう連載小説を担当しておりますが、「結局、読者は俗なものにしか興味を持たない」というプロ作家の達観が滲み出る名作ですので、未読の方も是非、一度お読みください)

歴史書業界ではこの維新150周年のBigWaveが生じており、その流れに乗って安藤氏も、既に多くの西郷隆盛関連書籍を刊行しております。

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本書は、映画で言えば西郷隆盛のスピン・オフ企画ということになりますが、言い方を変えれば西郷隆盛関連著作の副産物でありましょう(原価計算で言えば連産品)。
書籍の執筆過程において、西郷隆盛に関係する島津久光についても多くの資料が集まったため、これを別の視点から一冊にまとめてみたのが本書というわけです。
先程、副産物などという失礼な表現を使ってしまいましたが、その試みは的を射たものであり、切り口を変えて題材を整理し、ひとつの作品に仕上げのは立派なプロの技術であります。

したがいまして、本書は、大河ドラマ「西郷どん」を楽しむ際に、多角的な視点を提供する副読本にふさわしい一冊です。

話は変わりますが、、歴史書ジャンルにおける「周年」ビジネスを会計業界にも適用できないでしょうか。

来年の平成30年は平成元年の消費税導入から30周年でありますから、
「祝 大型間接税導入 30周年! 一般消費税、売上税の蹉跌を越えて」
といった企画や
平成20年4月に導入された内部統制規制(J-SOX法)10周年を記念して
「祝 内部統制 10周年! 失われた「重要な欠陥」を探して」
といった企画で関連書籍をバンバン刊行し、会計書ジャンルでもBig Waveを起こしていただきたいものです。

「西郷どん」の副読本として -書評「島津久光の明治維新」-

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2017年11月 2日 (木)

「10歳でもわかる」と「世界一」はどちらがわかりやすいのか? 書評『10歳でもわかる問題解決の授業』

担当編集者から苅野進氏の、新刊 『10歳でもわかる問題解決の授業』 を献本いただきました。

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作者の苅野氏は経営コンサルティング会社を経て、現在、学習塾ロジムを主催しています。
学習塾ロジムでは小学生向けに「問題解決力」や「ロジカルシンキング」を教えており、その実践の成果をまとめたのが本書です。
タイトルには「10歳でもわかる」とありますが、基本的にはビジネスパーソン向けのロジカル・シンキングの入門書という位置付けになります。

本書の執筆意図として
「考える力」は生まれつきのものではなく、非常に”シンプルな技術の習得”と”気持ちの持ちよう”で大きく伸びるという実感があります。

私たちを苦しめているのは「正解を見つけられなければ、考えた意味がない」という小学校以来のテストの世界で染み付いてしまった結果主義の考え方です。

本書では、「自分で考える」ことについての”苦手意識を取り除くための心理的・技術的なコツ”を紹介していきます。(以上「まえがき」より引用)

と記されています。

単にロジカル・シンキングの技術を伝えるのではなく、閉塞感のあるビジネスパーソンのマインドを変えたいという作者の思いは、日頃、小中学生の指導に接している経験から生じた危機感の現れとも言えましょう。

【本書の構成】
序章 “自分の頭で考える力”が「あらゆる問題」を解決してくれる

【第1部】 10歳でもわかる問題「解決」力
1時間目 “限られた情報”でも「仮説力」があれば問題は解決できる
2時間目 精度の高い”仮説を立てる手順”とは
3時間目 解決力の高い人の「論理的に考える」技術

【第2部】 10歳でもわかる問題「設定」力
4時間目 本当に「取り組むべき問題」が見つかれば”具体的な行動”ができる
5時間目 本質を見つけるためのフレームワーク

タイトルからいっても本書の比較対象となるのは、渡辺健介氏の 『世界一やさしい 問題解決の授業』 (以降「世界一」と記す)しかないでしょう。

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こちらは、2007年の刊行から刷りを重ね、既に累計40万部を超える大ベストセラーです(このジャンルでこの販売数は脅威的!)。

今回、新刊の「10歳でもわかる問題解決の授業」(以降「10歳」と記す)を読んだ際には、子どもの読者も想定した「世界一」の方が、かなり簡単な内容という印象をもったのですが、10年ぶりにあらためて「世界一」を読み直してみると、書かれている内容の難易度はほぼ同レベルでした。

自分が錯覚した理由は書籍の判型と装丁によるものでしょう。
「世界一」はフルカラーでイラストの量が多く、さらに全ページ数が117ページしかありません。一方、「10歳」は通常のビジネス書と同じ白黒の四六判で239ページ。

しかし、次の写真を見ていただくとわかるように、左側の「世界一」は、POPなイラストに目がいくものの、文字組みはかなり小さく、1ページ32文字×25行の800字。
それに対して右側の「10歳」はイラスト量は少ないものの1ページの文字数は38文字×14行の532字しかありません。
一冊の情報量としては、ほぼ同程度と言えます。

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むしろ、両誌の最大の違いは本文の構成にあります。

「世界一」はロジックツリーを中心に
  「問題の設定」→「解決法の適用」
という順序で構成されているのに対して、
「10歳」の構成は、仮説検証のサイクルを回していくことを前提にした上で
   「解決力の習得」→「問題の設定」
という順序で構成しています。

教科書的には「世界一」の順序が適切と考えられますが、実際には問題を解決することよりも正しい問題設定の方が難しいため、「10歳」では通常と逆の構成になっています。

既にベストセラーである「世界一」をお読みになられた方も多いと思いますが、この構成の違いに注意しながら両誌を読み比べてみるとロジカル・シンキングについての理解が深まります。

特に、職場(または家庭?)でロジカル・シンキングの手法を伝える際には大きなヒントが得られるはずです。

「10歳でもわかる」と「世界一」はどちらがわかりやすいのか? 書評『10歳でもわかる問題解決の授業』

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2017年9月14日 (木)

書評 『ワンストップ相続実務』 弁護士と税理士の間には

弁護士の長谷川裕雅先生から、新刊 『ワンストップ相続税務 弁護士と税理士 ~二つの異なる言語』
を献本いただきました。

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長谷川先生は、ベストセラーとなった 『磯野家の相続』 シリーズの他にも相続税になじみのない方々を対象にした多くの作品を著わしています。
法人税や所得税と異なり、一般の方々が相続税に関係するのは人生で1、2度しか起きませんから、相続税関連の書籍の多くが初心者向けになるのは当然です。

その一方で、実際に相続案件を進めていくと一般論とは異なる様々なトラブルが生じます。
そこで本書では
「相続の代表的な専門家である弁護士と税理士、それぞれの業務である遺産分割と相続税申告でクロスする問題に焦点をあてます。専門分野が交錯し、専門家でも誤解しがちな点をワンストップで解決するにはどうしたらよいかをわかりやすく説明し、一般の方にも理解してもらうことが本書のねらいです。」(本書「はじめに」より引用)

通常、このような専門家領域間の論点は関与する専門家の知識不足が原因で生じることが多く、それは各専門家の自助努力によって解決するしかありません。
しかし、知識不足だけが原因ではなく、各士業の制度上の違いから生じてしまう相違点も存在します。

税理士は「独立した公正な立場において」「納税義務の適正な実現」を使命としているのに対して(税理士法第1条)、弁護士は「当事者その他関係人の依頼」によって「法律事務を行うことを職務」 としています。(弁護士法 第3条)

その結果、税理士が「納税義務の適正な実現という公益的使命も同時に負っている」のに対して「弁護士のほうが依頼者のためにギリギリのところまで寄り添う場面が多い」(本書205ページ)というように、意見の相違が避けられない局面もあるのです。

本書の第2編では、この「立場の違い」だけではなく、「依頼者の違い」「求められるものの違い」「時間制限の有無の違い」といった視点から、両者の相違点を踏み込んで解説しています。
依頼者としては、「自分がわからないことなんだから専門家に頼んでいるのに!」と思われるのも当然ですが、依頼者の方が本書を一度お読みいただければ無用なトラブルを避けることができるはずです。

さらに、本書は、相続人になられた方が購入するだけではなく、税理士、弁護士の方々が読まれても依頼者の誤解を解く際に役立つ多くの知識が得られるでしょう。

<追記>
ちなみに、長谷川先生の前作は『不倫の教科書 既婚男女の危機管理術』
ですが、昨今、話題になっている政治家や芸能人の皆さんも、この書籍を事前に読んでいれば、このような悲劇は生まれなかったのではなかったのかと悔やまれます。

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【【書評】『ワンストップ相続実務』弁護士と税理士の間には

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2017年7月27日 (木)

【書評】「国際会計の実像」 は会計史のゆげ塾だ!

本日は、杉本徳栄教授が著した
『国際会計の実像 -会計基準のコンバージェンスとIFRSsアドプション-』 (同文館出版)をご紹介します。

と申しながら、私が本書を購入したのは「会計・監査ジャーナル」 8月号の山田辰巳先生の書評を拝見したからでありまして、私の駄文を読むよりも山田先生の書評をお読みいただいた方が、本書の魅力が伝わることを冒頭にお断りしておきます。

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現物が届きましたが、全1280ページ 定価13,000円(!)の大著でとにかく厚いです。

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比較用に隣に並べた『法人税法基本通達 逐条解説(八訂版)』(1664ページ)と比べると実務家の皆さんにはイメージしやすいと思います(ちなみに、こちらは7,200円)。

しかし、物理的な「厚さ」だけではなく、本書の中身の「熱さ」は、帯文の「著者渾身の一冊」 とおりの充実した内容です。

はしがきから本書の特徴を引用しますと、
「本書は、会計は言うに及ばず、外交を含む政治、経済、法律などの全方位から「制度」を捉え、会計基準のコンバージェンスとIFRSsアドプションを余すところなくまとめあげ、その実像について描き出すことを試みたものである。」

EU市場におけるIFRS義務化から始まった会計基準の統合議論は、我が国においても会計領域を越えた大テーマとなり、2010年前後に、そのピークを迎えました。
当時の米国と日本の状況を主要事項とともに簡単に時系列で追っていくと、

2008年8月 米国・SEC「ロードマップ規則案」の公表
(Roadmap for the Potential Use of Financial Statemnet Prepared in Accordance with International Financial Reporting Standards by U.S.Issuers)

このロードマップ規則案をベースに、我が国の方向を示す意見書が公表され、
2009年6月 日本・金融庁「我が国における国際会計基準の取扱いに関する意見書(中間報告)」

その後、米国で
2010年2月 米国・SEC 「SEC声明」
(Commission Statement in Support of Convergence and Global Accounting Standards)
が公表されましたが、このSEC声明は、当初のロードマップ規則案よりもIFRS導入に距離を置いた内容になっていたため、この時点で日本の進行状況が米国を追い抜くような状態になってしまいました。

このころ、国内のIFRSブームがピークを迎え、強制適用時期を巡る議論も進みましたが、東日本大震災直後の2011年6月21日に、民主党政権下の自見庄三郎金融大臣の談話
「IFRS適用に関する検討について」が公表され、2015年3月期における強制適用が否定されます。
その後、IFRS任意適用企業が徐々に増加して現在に及んでいます。

我が国においては、この時の自見金融大臣の発言が大きなターニングポイントになっており、その過程について本書第14章で詳細な検証が行われています。

当時の自見氏の考えとして、本書では『日経ヴェリタス』の発言が引用されています。

「当時は内外の情勢を考えて拙速な判断を避ける狙いがあった。金融庁の事務方では方針を転換するのは難しかったので、私が悪人となって政治主導でやるしかなかった。」(本書 1147ページ)

そして、自見大臣の発言中に出てきている政治主導の流れが、我が国でどのようにして生まれてきたのかを郵政民営化問題まで遡って分析しています。

近年、ビジネス書の領域で歴史書のヒットが増えています。
その中でも、受験世界史専門の塾を主催している ゆげ塾 さんの一連の著作は、今まで学んできた世界史を異なる視点から切り取って提示してくれるので読者を飽きさせません。

本書は会計の専門書というよりも学術書の領域の書籍ですが、IFRSの歴史を多様な視点から読み解いているため、「ゆげ塾」さんのビジネスマン向け歴史書のように、そのボリュームと関係なく興味を持ち続けながら読み進められます。

最後に冒頭でご紹介した山田先生の書評からの引用でしめさせていただきます。

「著者が、本書を完成させるためにどれだけの膨大な時間を費やして資料を収集し、分析整理したかを思うと、その情熱には感動すら覚える。著者の努力に敬意を表したい。」(「会計・監査ジャーナル」2017年8月号137ページ)

P.S
当HPでのご案内が遅れてしまいましたが、丁度、今月、拙書 『この1冊ですべてわかる 会計の基本』 が12刷りとなりました。
増刷の都度、書籍内の推薦図書を見直しているのですが、今回の増刷時に本書をIFRSの推薦図書に入れることができなかったため、次回13刷の際に御紹介する予定です。(そう言いながら13刷に到達しなかった際にはご容赦ください)

【書評】「国際会計の実像」 は会計史のゆげ塾だ!

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2017年4月21日 (金)

書評 『不倫の教科書』と『損する結婚 儲かる結婚』

弁護士の長谷川裕雅先生から、新刊 『不倫の教科書 既婚男女の危機管理術』 を献本いただきました。

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長谷川先生は、ベストセラーとなった 『磯野家の相続』 シリーズをはじめとした相続に関する書籍を多く著していますが、もうひとつのシリーズとして男女間の法律関係を解説する書籍も定期的に刊行されています。

今回の新刊もセンセーショナルなタイトルになっていますが、前書きには、次のように本書の目的が書かれています。
「本書の目的は、不倫スキャンダルを興味本位で覗き見ることではありません。むしろ、不倫がいかにリスクの高いものであるかを具体的に指摘し、深い落とし穴にはまることのないよう警告することが目的の一つです。」

第1章に不倫トラブル事例、続く第2章は不倫のリスクマネジメント、最終の第3章には「それでも不倫をしてしまう人への7箇条」という構成になっており、法律の専門家として、不倫にまつわるリスクと対応策を判例とともに解説しています。

第2章「法律は不倫にきびしいのか」という節では、現行の法律だけではなく古代ギリシアなど古今東西の不倫に対する法制度の変遷が書かれているのですが、これが無茶苦茶にハードな内容になっておりまして、この部分を読まれるだけでも安易な不倫に対する抑止力を持つでしょう。

本誌と合わせて読みたい1冊が、ブログ『金融日記』で有名な藤沢数希氏の新刊 『損する結婚 儲かる離婚』です。

本書は
「結婚(そして潜在的に将来の離婚)という法的契約は、ひとつの金融商品の取引だと考えて分析すると、驚くほどその本質が理解できる」
という切り口で、離婚裁判の実際から離婚にかかる経済的コスト、さらには新しい婚姻制度の提案にまで言及しています。

離婚に係るコスト算出にあたり、両誌ともに引用している資料として家庭裁判所が公表している「養育費算定表」があります。

http://www.courts.go.jp/tokyo-f/vcms_lf/santeihyo.pdf

少し見づらい表ですが、縦軸に養育費または婚姻費用を支払う側(義務者)の年収、横軸には支払いを受ける側(権利者)の年収がとられており、この表から、離婚にともなる経済的リスクは年収の高い者、さらには両者の年収の差が大きいほど大きくなることがわかります。

両誌は、現在幸せな家庭を築かれている方であっても、転ばぬ先の杖、または軽率な行動を戒めるためにも有効な1冊です。

ただし、いずれの書籍も扇動的なタイトルになっていますので、うかつに表紙が見えるような形で家庭内(又はオフィス内)に放置しておくと、潜在的なリスクが顕在化する恐れがある点にご注意ください。

藤沢氏の著作は離婚という事象をファイナンスという視点から、長谷川氏の著作は法律という視点から解説しています。
このアプローチを拝借するならば、 「離婚の税金学」「不倫の会計学」といった企画が容易に思いつくところでありますが、この企画については私以上に適任の先生が多々(?)いらっしゃると思いますので、先達の皆様にお譲りさせていただきます。

(おまけ)
この2冊を読む時のBGMはこれしかありません。
Babyface & Tony Braxton の “Love Marriage & Divorce”

こんな甘い曲では、緊張感がでないという方は
Marvin Gaye の “Here My Dear”(邦題 『離婚伝説』)
がおすすめです。

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2017年3月14日 (火)

慶応4年3月14日に思いを馳せる -書評「西郷隆盛の明治」「大奥の女たちの明治維新」-

本日、3月14日は何の日でしょうか?

多くの方はホワイト・デー、一部の方は数学の日(円周率とアインシュタインの誕生日にちなんで)を連想されると思いますが、我が国の運命を決めた一日でもあります。

慶応4年3月14日、徳川家代表 勝海舟と新政府軍の東征大総督府参謀 西郷隆盛が江戸城開城についての条件を決定する会談が行われました。(この時代は旧暦のため、新暦では4月6日が正確な対応日になりますが、本日のネタということでご容赦ください)

両者の会談の結果、いわゆる江戸城無血開城が実現したのですが、この時の会談が決別し、翌15日に予定されていた江戸城総攻撃を決行されていたならば江戸は血の海に。さらに、欧州列強の干渉によって、我が国の独立も危うかったのではと言われています。

江戸城無血開城
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B1%9F%E6%88%B8%E9%96%8B%E5%9F%8E

慶応4年は西暦で1868年ですから、今年2017年は
大政奉還 150年 であり、
来年2018年(平成30年)は
明治維新 150年  の節目の年になります。

201703141


そこで、本日、御紹介させていただく書籍は
  「西郷隆盛の明治」(洋泉社)

 「大奥の女たちの明治維新」(朝日新書)
                                     の2冊です。

201703142


いずれも作者の 安藤優一郎氏から献本いただいたのですが、朝日新書、洋泉社と異なる出版社から同タイミングの出版であり、作者のご苦労が偲ばれるとともに、明治維新150年のビジネスチャンス(!)にかける歴史書編集者の鬼気迫る思いが伝わります。

私、日本史については門外漢なため(ちなみに共通一次試験の選択も世界史です)、本日は簡単に両誌のご紹介まで。

まず、 「西郷隆盛の明治」は、副題の「激動の10年を追う」にあるように、新政府樹立の立役者であった西郷が、その後、西南戦争によって自決するまでの経緯をまとめています。
教科書では征韓論による政府内の対立が原因と学びましたが、本書で詳細を追っていくと、組織を率いるリーダーのジレンマが、このような悲劇をうんでしまったことがわかります。

もう1冊の 「大奥の女たちの明治維新」 の副題は 「幕臣、豪商、大名―敗者のその後」となっています。
明治維新となると坂本、西郷、勝といった維新の英雄を取り上げる書籍が多い中、本書では明治維新によって敗者側に追い込まれた人々が、その後、明治の時代をどのように生き抜いていったかに焦点をあてています。

大奥篤姫をはじめ徳川家の子孫達の生き様や、江戸から東京にかわった庶民の生活を、様々な文献から探っています。
その中で、女性運動家 山川菊栄氏が母 青山千世氏の見聞を記録した『おんな二代の記』(平凡社東洋文庫)から、前述した西郷隆盛に関する以下の記述が引用されています。

「そのころの西郷の人気はたいしたもので、―というのが、いろいろの意味での個人的不平や社会的不安がそこに大きなはけ口を見出したからでしょうー何がなんでも西郷さんが出なくてはだめだ、どうでも西郷さんに勝たせたい、という声ばかり。」 (p197)

「御茶ノ水の寄宿舎でも、西南戦争は興奮の渦をまき起こし、毎朝の新聞は奪いあいで、「西郷さんに勝ってもらわなければ」、「西郷さんが負けたらどうしよう」という声が高かったものです。いったい西郷さんが勝ったら日本がどうなるのか、どんな政府ができて、どんな政治が行われるのか、誰もそんなことは考えていなかったらしい、と晩年の千世は笑っていました。」 (p200)

これに似た風景は、現代でも多々見受けられるのではないでしょうか。

【追記】
最後になって冒頭のネタに戻りますが、本日紹介すべき書籍は、こちらが適切だったかもしれません。

円周率1000000桁表

当著作の詳細については、このブログをご参照ください。


20120730

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