書評

2016年8月30日 (火)

 書評『マンガできちんとわかる!遺産相続と手続き』 ―マンガ以外の部分が勝負―

弁護士の長谷川裕雅先生 から、新刊 『マンガできちんとわかる! 遺産相続と手続き』 を献本いただきました。

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長谷川先生は、ベストセラーとなった 『磯野家の相続』 シリーズをはじめ、相続に関して既に多くの書籍を著していますが、今回はビジネス書の時流にのったビジネスコミックを刊行されました。

近年、ビジネス書籍の「マンガ化」は大きな潮流となっています。
拙書 『マンガでやさしくわかる決算書』 も、発売から1年半で8刷に及んでおり、従来書籍との動きの違いを実感しているところです。

書評の前に、ビジネスコミックの分類からお話しておきましょう。
ビジネスコミックは大きく下記の3種類に分けられます。
・全マンガ … 全ページがマンガ
・マンガ半分以上 …  全ページに占めるマンガの割合が文章より多い
・マンガ半分以下 …  全ページに占める文章の割合がマンガより多い

会計ジャンルのビジネスコミックにあてはめてみると、
全マンガ…國貞克則著 『超高速 会計勉強法』
マンガ半分以上
…小宮一慶 著 『決算書速習教室』
            (マンガ110ページ/全189ページ)
マンガ半分以下…岩谷誠治 著 『マンガでやさしくわかる決算書』
             (マンガ100ページ/全227ページ)
のように対応します。

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当然、マンガの量が多いほど初心者向けの入門書になりますが、単純に書籍の難易度によってマンガの量が決まるわけではありません。
マンガは1ページの原価が高いため、企画段階でページ数が決定されます。つまり、マンガの量は各シリーズごとに所与であり著者の意向で変更できるものではないのです。
そこで、ビジネスコミックの著者(及び編集者)は、与えられたフォーマットの中でどのように表現していくかに知恵をしぼります。

このような事前知識を持ったうえで本書を見ていくと、本書は全223ページのうち純粋なマンガ部分は67ページしかありません。しかし、親しみやすいイラスを用いるとともに文書部分のほとんどに図表を入れることで初心者向けの書籍であることをアピールしています。

マンガや図表を増やすと、親しみやすくて初心者も手をとりやすいというメリットがある反面、しっかりした内容を伝えづらいという欠点も生じます。

会計書籍の場合、会計知識を導入するための1冊目の入門書として割切った編集も可能ですが、相続関係の書籍の場合は、人生に数度しかないできごとであり、複数の書籍で順番に学んでいこうという読者は稀ですから、入門書でありながら実務書の内容を伝えるという矛盾した要求にこたえなければなりません。

そこで、実務に対応できる書籍にするために、著者がとった方法のひとつが冒頭にある書き込み式の図表です。

本書の冒頭には、
「相続手続きのスケジュール表」
「財産リスト」
「相続税計算シート」
「特別従駅・寄与分リスト」

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が用意されています。この図表を冒頭に持ってきたことで、相続にまつわる概要を伝えるだけではなく実務書として利用できることがわかります。

初心者を意識して「やわらかい」マンガを用いながら、実際の相続手続きを完結させるという難問に、うまく挑戦した1冊と言えましょう。

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2016年6月30日 (木)

【書評】「金融パーソンが押さえておくべき 相続・事業承継のツボ」

TAO税理士法人の金谷亮先生から、新刊 『金融パーソンが押さえておくべき 相続・事業承継のツボ』 (以降「承継のツボ」)を献本いただきました。

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相続税の基礎控除額引き下げを契機に、業界の内外で相続ビジネスが盛り上がっています。
その中でも、相続・事業承継といった事案にもっとも近いところで活動されているのが金融機関の営業担当者の方々でしょう。

そこで、本書は、金融機関の営業担当者を対象に、相続・事業承継対策のポイントとなる「ツボ」を解説するものです。

全体は4章で構成されています。
第1章 つぼのツボ
第2章 資産承継のツボ
第3章 提案発想のツボ
第4章 提案実践のツボ
(巻末資料) 平成28年度税制改正のツボ

まず、第1章で総論と本書の利用法、第2章で相続・事業承継に関する基本知識を解説します。
続く第3章は、顧客のニーズごとに金融機関が提案できる個別手法の解説、
最後の第4章は具体的な事例を取り上げています。

実は、金融関係者をターゲットにした相続の指南書は、既に結構な種類が刊行されています。
しかし、この手の書籍は、新しい税制改正がセールストークの肝になりますから、最新の税制改正を織り込んだ書籍を使わなければ意味がありません。
その点において本書が類書に対して決定的なアドバンテージを有しているのは明らかです。

そこで今回は、資産税を専門に活動されている税理士法人タクトコンサルティングが、税理士向けに執筆した「税理士なら知っておきたい 事業承継対策の法務・税務Q&A」 (以降「承継QA」)

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を比較対象とし、読者対象による編集手法の違いをみていきましょう。

会計・税務書籍において専門家向けと一般読者向けの最大の違いは、 
  ・根拠条文の併記
  ・仕訳の有無

の2点になります。

専門家を対象とする「承継QA」では、本文中に根拠条文が併記されているのに対して、「承継のツボ」には根拠条文は一切でてきません。
同様に、「承継QA」には、本文中のところどころで仕訳が使われていますが、「承継のツボ」には仕訳はまったく出てきません。

次に、個別論点ごとの記述内容を比較してみましょう。
事業承継の基本論点となる「非上場株式の評価方法」を見ていきます。
非上場株式の評価にあたっては、
  論点1 3種類の評価方法
  論点2  同族株主か否か
   論点3 会社規模による適用分類
という3つの論点が存在します。

当然のことながら、専門家を対象とする「承継QA」では、各項目ごとに根拠条文を織り交ぜながら詳細な説明がなされており、延べ50ページに渡って説明しています。
専門家であっても50ページの文章を読みこなすのは難しいため、主要論点を個別にQ&Aという形で抽出することで読みやすさにも配慮しています。

一方、「承継のツボ」では、論点1については各計算方式ごとの説明、論点3については評価明細書を用いた説明があるものの、論点2の同族株主については、「同族株主」という単語自体、使われておらず

「中小企業の多くは身近な親族で保有しているケースがほとんどです。オーナー経営者や後継者の保有する株式の評価は原則的な評価方法が適用される、というイメージが大切です」(「承継のツボ」p65)

という記述にとどめています。
中途半端に「同族株主」の論点に言及せずに、読者の理解度を優先した割切りが感じられます。

定義類の省略を補うために「よくある実務での勘違い」という項を設け、実務上の留意点については、別途、補足する工夫もされています。

また、「承継のツボ」では、アドバイスの対象となる資産家を「キャッシュ・リッチ」「土地持ち」「実業家」の3種類に区分し、各種法の説明ごとに適用対象となる資産家の種類をイラストを用いて表示しています。

一般読者向けの書籍においては、詳細や正確さを追うのではなく、このような「読みやすさ」への配慮が大切であり、その点において「承継のツボ」は、よく考えて編集されています。

自分も専門家のため、通常、専門書を読んでいても特段の違和感はないのですが、一般向けと専門家向けの2冊をあらためて読み比べてみると両者の違いは歴然です。
やはり、専門書を一般の方が読みこなすのは、かなり難しい作業になるため「承継のツボ」のように、一般読者と専門知識の橋渡しをする書籍の存在は貴重でありましょう。

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2016年4月 1日 (金)

【書評】『決算早期化の実務マニュアル 第2版』

武田雄治先生から、新刊 『決算早期化の実務マニュアル 第2版』 (以降「第2版」)を献本いただきました。

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本書は、2009年の 『決算早期化の仕組みと実務』 をバージョンアップして2012年に刊行した 『決算早期化の実務マニュアル』 (以降「初版」)の改訂版にあたります。

したがいまして、今回の書評では第2版初版からどれだけ変わったのかに注目してみました。

何よりも変わったのは「まえがき」です。まえがきは本文と関係ないと思われる読者の方も多いと思いますが、作者の思いが吐露されるのが「まえがき」であり、「まえがき」を読めば作者の熱量がわかるのです。

第2版の「まえがき」に次のような記述があります。

「そして、筆者の決算早期化コンサルティングも、単に決算短針の発表日を前倒しするというプロジェクトの枠を超え、「真の経理部」の仕組みを構築し、経営に貢献できる経理部、企業価値の向上に貢献できる経理部を作るという内容に変わってきました。」

この一文が、第2版の特徴を表わしています。第2版では、単に決算早期化のノウハウを提供するだけではなく、経理部のあり方まで射程が広げられています。
初版では、経理部を「情報製造業」と定義していたのに対して、第2版では「情報製造業」の先の「サービス業」を目指すべきと主張しています。

単に数字を集計するだけではなく、 「各利害関係者に対する「サービス業」へと進化させなければならない」 (第2版p112)という方向性は、IFRS導入によって定性情報が増加しているという外的環境の変化ともフィットするものです。

各章の個別の手法についても、初版をベースにブラッシュアップが図られています。
その中で私が注目したのは、初版にはなかった「連結エクセル化」というアプローチです。これは、連結子会社数が少ないのならば連結専用ソフトを使うのではなく、積極的にエクセル化を勧めるものです。
子会社数やセグメントが増加した場合には連結専用ソフトを使わざるをえませんが、子会社数が少ない場合には、本書が指摘しているようにエクセルの方が効率的なケースは散見されます。
しかし、エクセルの使用を積極的に勧めるところまで踏み込んで記述するのは経験の裏付けがなければできない論点です。

本書を読んでいて、ひとつだけ気になった点があります。
150ページに資料データのファイル名を統一する手法が説明されています。
ファイル名を決算期、リファレンスナンバー、資料名といった属性ごとに決まった順序で命名することを勧めており、その例示の中でファイル名の属性の区切りに「半角スペース」が使われています。
ファイル名の検索やUnix環境でのファイルバックアップなどを考慮した場合、ファイル名に「スペース」は使わずに「_ (アンダーバー)」等を使用した方が良いでしょう(私のようなロートルSEの老婆心ではありますが)。

読者の皆さんが知りたいことは
「初版を持っているんだけど、第2版を買いなおす必要はあるのか?」
という論点かと推察します。
その結論は、
「当然、買っておきましょう」
ということです。

1冊2,500円なら、経理部員2時間分の残業代で回収できるんですから!

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2016年3月10日 (木)

書評『女騎士、経理になる。』 

先日、らくからちゃ氏のブログ 「ゆとりずむ」Rootport 氏 の著作 『女騎士、経理になる。』が紹介されネット上の話題になりました。
そこで、今回は、本書『女騎士、経理になる。』を取り上げてみましょう。

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(Disclaimer)
評者である私自身も同類の会計コミックを上梓しているため、書評の中立性に問題が生じる恐れがあります。

本書は、Rootport氏のツィートを原作としてコミック化したもので、 『ファンタジー』『会計』 の融合という革新的なアプローチがとられています。

私のような中年オヤジにとっては、『ファンタジー』系のストーリーや絵柄がちょっと厳しいのですが(お恥ずかしい話ですが、文中に出てくる「オーク」や「エルフ」といった単語が固有名詞なのか一般名詞なのかがわかりません)、話のところどころに挿入された会計ネタの面白さは、ツウをうならせるものです。

『ファンタジー』と『会計』の融合という点でも破たんなくまとめられており、その切れ味はかつての名番組『カノッサの屈辱』を思い起こさせます(このネタがわかること自体、相応の年齢)。

私も、かつてビジネスコミックを製作したことがあるのですが、その経験から、本書の中で一番共感したのはあとがきに書かれている作画担当の三ツ矢彰氏への謝辞です

「最後に、最大の賛辞を作画担当の三ツ矢彰先生に送りたい。私の乏しい語彙では、この気持ちを伝えるのに十分な言葉がみつからない。」

本当に、マンガ家の方々の才能というか能力はすごいものがあります。
その製作過程を拝見すると「最初のこれが、最後には、こんな形になるのか!」と感心しきりです。
今回の作品もRootport氏の原作の面白さだけでなく、それをコミックとしてまとめあげた作画担当の三ツ矢彰氏(または途中に協力されたシナリオライターの方も含め)の尽力の賜でしょう。

ストーリーで会計を教えるというアプローチは、既に山田真哉氏の「女子大生会計士の事件簿」シリーズや林總氏の「餃子屋とフレンチ」シリーズが偉大な実績を残しておりますが、「ファンタジー」と「会計」を融合したRootport氏の革新性に、我々(勝手に一緒にするな!)会計士は立ち向かうことができるのでしょうか?

そこで(?)私も「革新性」という点においては会計史上に残るであろう新作を用意いたしました。

『矢印を目でなぞるだけ! 一瞬でわかる決算書の読み方』
(まだ、書影も作者名も入ってませんが、私の作品です)

おいおい「12歳」とか「2時間」でわかるの次は「一瞬」かよ!

「目でなぞる」んじゃなくて「目で追う」だろう!

と鼻白む読者の皆様の顔が思い浮かびますが、次回作はかけねなしに「一瞬」で決算書が読めてしまいます。
そのために、 「B/S似顔絵分析法」 に続く新しい方法論を開発しました。
Photo

その秘密の封印が解かれるのは3月23日です!
こうご期待ください!

(ということで、今回は書評から無理やり、自作のティーザー広告に持ち込んでしまいましたが、刊行2週間前ということでご勘弁)

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2016年3月 9日 (水)

書評『管理会計の理論と実務(第2版)』

中央経済社から日本大学商学部教授 川野克典氏の新刊 『管理会計の理論と実務(第2版)』 を献本いただきました。 本日は、この骨太の1冊をレビューしたいと思います。

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(Disclaimer)
作者である川野氏は、私のコンサルティングファーム時代の上司でありまして、下手な書評は書けないという緊張感(?)が生じております。

本書は2012年に刊行された同名書籍の改訂版です。 前書きにあるように「理論と実務の橋渡し」となることを目的とし、管理会計の理論を説明するだけではなく、実務における適用事例や課題をまとめています。

たとえば、次のような文中の簡単な一言も、実経験の裏付けがなければ書けないものであり、読者にとって参考になります。

「(原価計算の)差異分析の中でも、製造間接費の分析は、二分法、三分法、四分法が存在するが、そのいずれの分析も無意味と考えている実務家は多い」 (45ページ)

「ABCは、誕生初期においてすべての間接費を割り付けできると誤解された。筆者もコンサルタントの時、顧客にABCによりすべての間接費を割り付けできると説明していた時期がある」(104ページ 注書)


また、作者は管理会計の理論上のベースとなる原価計算基準の現状との乖離について強い問題意識を有しており、第5章「原価計算基準の陳腐化」、第18章「会計基準に対応した日本企業の管理会計の変革」において原価計算基準の改訂を提言しています。

そこで、今回、比較対象としてとりあげるのは清水孝氏の『現場で使える原価計算』 (以降「比較書」)です。


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比較書の特徴は、2011年に上場製造業に対して行った質問票調査の結果にもとづき、原価計算実務の現状を伝える点にあります。

たとえば、地味ではあるが現場担当者を悩ませる論点として材料副費の処理があります。

それに対して以下のような調査結果が提示されるため、自社の処理方針を決める際の参考になります。

材料の購入原価に含める材料副費の範囲(複数回答あり)
①すべての外部副費  93社
②一部の外部副費   57社
③すべての内部副費  17社
④一部の内部副費   31社
⑤材料副費は材料の購入原価に算入していない 42社
 無回答 4社
(比較書 28ページ 図表2‐6より抜粋)


原価計算書籍の多くは、理論の説明を中心にしたものが多いため、実務の状況を俯瞰できる書籍は貴重です。

今回、比較書をあらためて読み直したところ、以下のような記述があることに気付きました。

「川野(2008)は、『基準』が答申された時代と比較し、手作業から機械中心の生産方式への変化、対象生産から多品種少量生産への変化、研究開発費等の間接費の増加、ITの進展、生産・販売・研究開発等の分野における日本企業のグローバル展開、非製造業やソフトウェア業の拡大などを示した上で、『基準』はこれら応えられず、『基準』にとらわれない原価計算をする必要があると指摘している」 (比較書 16ページより引用)

作者の清水氏は、川野氏の問題提起に対する回答を提示することが調査のきっかけになったと書いています。

評者である私自身は、アカデミックからほど遠く実務一辺倒で働いているため、学術上の理論を軽んじがちなのですが、アカデミック領域の方々の地道な努力が実務のバックボーンになっていることに改めて気付かされました。

今回の2冊は、合わせて読むことで、自社の原価計算の在り方について見直すきっかけが得られるでしょう。

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2015年12月 8日 (火)

書評『ITエンジニアとして生き残るための会計の知識』とSE本の興亡

公認会計士の原 幹先生 から、新刊の 『ITエンジニアとして生き残るための会計の知識』 (日経BP社)を献本いただきました。

先日、書評を掲載した『「クラウド会計」が経理を変える!』 が9月の発売ですから、立て続けの刊行になります。

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(Disclaimer)
評者である私自身も同類の会計書籍を上梓しているため、書評の中立性に問題が生じる恐れがあります。
ということで、今回は、少し書評を離れSE向けの会計本の歴史を紐解いていきましょう。


SE(システムエンジニア)は1980年ごろ、電子計算機の普及にあわせて広がった職種です。
SE向けの書籍の中心は開発言語を解説した技術書だったのですが、徐々にビジネス書に近い領域の書籍が増え始めました。

その萌芽となったのが、ワインバーグの一連の書籍です。



その後、情報システムの発展にともなって従事者も増加し、SE向けの書籍がビジネス書の中でも一定の需要を生み、「SE本」と呼ばれるジャンルが生まれてきました。

私が、SE本における会計書籍のターニングポイントと考えるのは、 2001年に小橋淳一氏が著した 「経理・財務知識の再入門講座」 のヒットです。



私が本書を手にとったのは、システム開発の現場を離れ既に公認会計士になってからですが、自分が新人SEのころにこのような本があれば良かったのになあと思わせる内容でした。

本書が、それまでの会計書籍と違ったのは、単に会計知識を伝えるのではなく業務のプロセス、つまり業務知識として伝えている点です。

この書籍の成功後、SE向けに様々な業務知識を解説した書籍が増え、SE本のジャンルが広がっていきます。

書籍だけではなく、このころはSE向けの雑誌も隆盛であり、雑誌の連載を書籍化したものも多く生まれました。
DB Magazineに連載を続けていた梅田弘之氏の一連の著作は、現在でも参考になります。

この2000年代の前半が、SE本のピークと思われます。
その勢いに便乗して、私も2006年に 『超図解 新人SEのための会計&業務の基礎知識』 を刊行しました。

しかし、この本は現在では入手できません。
それは、絶版になったからではなく、発売直後の2007年に出版元のエクスメディア社が倒産してしまったからです。
エクスメディア社はパソコンユーザー向けの超図解シリーズで躍進した出版社でしたが、Windows95から始まったパソコンブームも次第に沈静化していき、新たな需要を築けませんでした。
(なお、エクスメディア社は出版社にもかかわらず、社内にデザイン室があるなど編集手法が独特で、著者としては大変、勉強になりました。)

パソコンがコモデティ化して行くのと並行して、エンタープライズ向けのシステム構築も従来の受託開発からSAP等のERPを用いたパッケージ開発に移行していきます。
この地殻変動にともなってSEを冠した書籍は徐々に減少し、最近ではITエンジニアやITコンサルタントといった名称に置換えられていきました。

2000年代には
COMPUTER WORLD(IDGジャパン)
IT アーキテクト (IDGジャパン)
月刊 コンピュートピア (コンピュータエージ社)
Software People (技術評論社)

といった開発者向けの書籍が多くありましたが、現在は既に廃刊しています。日経BP社の発行していた「IT プロッフェショナル」誌が「日経システム構築」誌と統合して「日経SYSTEMS」に生まれ変わるなど、銀行業界同様の再編もありました。

現在では、かつてのSE本ジャンルの会計書の出版は減少しており、私の手許にあるものとしては、

2012年に吉田延史氏が刊行された「 ITエンジニアのための会計知識41のきほん」(インプレスジャパン) が最新の作品になっています。
(なお、本書では、最後のコラム 「ステップアップのための書籍紹介 」で拙書 「会計の基本」 を推薦していただいています。この場をお借りして御礼申し上げます)


無駄に長い前フリから、評書の解説に戻ります。

評書も、これまでのSE向け会計本と同様に、最初に会計の基本的知識を、次に会計業務のプロセス会計システムの機能と関連付けながら解説していきます。
本書の特色は後半にあります。

第5章では、 「顧客向けITプロジェクト」 参画時に必要な知識として ・原価計算 ・売上の計上、工事進行基準 ・プロジェクト別損益 を解説。

第6章では、 個々のプロジェクトからさらに一歩進み、 「事業計画」 作成に必要な知識として 事業計画の作成手順 ・KPIとなる財務指標を紹介。

最後の第7章 では「社内IT投資」に必要な会計知識として投資の効果測定にまで言及しています。

本書は、SE本の系譜を継ぐ書籍として十分な内容を持つだけではなく、現代のITエンジニア、ITコンサルタントの業務領域までを抑えた書籍と言えるでしょう。

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2015年11月25日 (水)

書評『「クラウド会計」が経理を変える!』の掲載

今週刊行された 『旬刊 経理情報』 12月1日号の書評欄において、 原 幹先生 が執筆された 『「クラウド会計」が経理を変える!』



の書評を寄稿しました。


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(原先生は現在、同誌で「IFRSシステム整備の勘所」という連載も執筆されています)

経理関係の専門書ではありますが、部門で購入されている会社も多いと思いますので、お手許にございましたら御一読いただければ幸いです。

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2015年10月16日 (金)

書評 『だれも継がない困った実家のたたみ方 家・土地・お墓』

先日、弁護士の長谷川裕雅先生から、新刊 『だれも継がない困った実家のたたみ方 家・土地・お墓』 を献本いただきました。

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写真の後ろに写っているのは、長谷川先生の前作 『みのもんたにならないための危機管理マニュアル』ですが、前作から4ヶ月というハイペースでの刊行です。

長谷川先生は、ベストセラーとなった 『磯野家の相続』シリーズをはじめ、相続に関しては既に多くの書籍を著していますが、本書はタイトルにあるように「実家のたたみ方」という視点からまとめられた一冊です。

相続税法の改正によって課税対象が拡大されたものの、実際に相続税が発生するケースは被相続人(死亡者)の1割程度にも及びません(改正前の平成25年度実績では4.3%)。

つまり、相続税が発生するほど財産が多いならば、それは、むしろ幸せなケースであり、相続税の有無とは関係なく発生する「実家をどうするのか」という問題の方が、より多くの人々を悩ませているのです。

本作は、エンディングコンサルタントの佐々木悦子氏との共作になっており、実家だけではなく お墓のたたみ方について十分なページを割いて説明しているのが特徴です。

例えば、新しいお墓の選び方として
・霊園がつぶれることもある
・仮予約のつもりでサインしたら、本契約になっていた

といったように、本音ベースの実践的なポイントが多く紹介されています。

今回、比較対象とするのは、現在ベストセラーになっている自由国民社の 『身近な人が亡くなった後の手続のすべて』です。

こちらは、司法書士の児島明日美氏、税理士の福田真弓氏、社会保険労務士の酒井明日子氏の共作です。
この本は、本当に良く売れておりまして、発売から1年も絶たないうちに20万部(!)を超える大ベストセラーになっています。

共著者の顔ぶれからわかるように、ご家族が亡くなられた際の事務手続きから、税金、年金まで、関連するジャンルが漏れなく解説されています。

ただし、このような内容の書籍は実務書の定番であり、過去から多くの類書が存在しています。その中で、なぜ本書が、ここまで売れたのでしょうか。

相続税法改正が追い風になったのは確かですが、それにあわせて出版された、あまたの相続税関連書籍よりも売れています。
前述したように、実際に相続税が生じるケースは限定されるため、税金中心の構成よりも汎用的な内容の方が読者ニーズにマッチしたのでしょう。

また、ベストセラーを生むためには、本の内容だけではなく、出すタイミングが大切なことを実感させる一冊です(誤解のないように補足しておきますが、本書は内容的にも充実しています)。

ということで、ご家族の不幸に際して一般的な知識を身に付けておきたいという方には『身近な人が亡くなった後の手続のすべて』を、実家及びお墓の整理に困っている方には『だれも継がない困った実家のたたみ方 家・土地・お墓』をおすすめします。

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2015年10月 9日 (金)

書評「関ヶ原合戦」の不都合な真実 (川越高校ノーベル章受賞記念編)

先日、東京大学教授の梶田隆章氏がノーベル物理学賞を受賞されました。

梶田氏が卒業された 川越高校 は、私の母校でもありまして、ニュースなど見ながら友人と盛り上がっておりましたところ、高校の同級生である安藤優一郎氏から献本をいただきました。

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ということで、いつもはビジネス書しか取り上げない当ブログですが、本日は川越高校ノーベル賞受賞記念(?)ということで、門外漢ながら
「「関ヶ原合戦」の不都合な真実」(PHP文庫)
をご紹介したいと思います。

作者の安藤優一郎氏は、歴史学者として執筆や講演、ドラマの時代考証などで活躍されており、既に30冊を越える作品を著しています。

「勝てば官軍、負ければ賊軍」の例え通り、現在に伝わる史実は、勝者の側からのバイアスが多く混じっています。
そこで、過去の史実をもとにして歪曲された歴史を是正したいというのが作者の一貫した姿勢であり、それは幕末時代を取り上げた前作 「幕末維新 消された歴史」(日本経済新聞出版社) からも引き継がれています。

(ちなみに、この書籍の日経の編集者が、私の担当者と同じでして、その縁で安藤氏が学友と気づいたのが実態であります)

今回は、徳川家康の戦略的完勝と言われている関が原の戦いの事実を解き明かしていきます。

有名な関が原の戦いは、実際は数時間で決着がついていたとか、小早川秀秋への「問鉄砲」は、実際にはなかったといった話は、最近のテレビ番組等の知識から、ご存知の方も多いかもしれません(確か、私はNHKの「その時、歴史は動いた」で見たような)。

本書は、そのような著名トピックスだけではなく、関ヶ原の戦いに至るまでの秀吉、家康、三成の関係を時系列に紐解くことで、関ヶ原の戦いの実態を検証し直しています。

先日、NHKスペシャルで山崎豊子氏の特集がありましたが、物語や小説における「ラベル付け」の威力は強大です。
それがゆえに、多くの人々の記憶に残るのは確かですが、その結果、見落とされたり曲解された事実に光をあてることが歴史家の仕事でありましょう。

言われてみれば、「あの時代に、徳川家康だけ、うまく立ち回れたわけないよなあ」という客観的な事実を再認識できる一冊になっています。

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2015年4月27日 (月)

基本シリーズはどこまで続けられるのか?【書評】『経営分析の基本』

日本実業出版社から林總先生の 『経営分析の基本』を献本していただきました。

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(Disclaimer)
以前の書評 でも言及したように、評者である私自身も同類の決算書本を上梓しているため本書の作者とは競合関係にあります。
その一方で、同じ「この一冊ですべてわかるXXの基本」シリーズの著者( 「会計の基本」 )でもあるため、同シリーズの販促に関しては協業関係が生じています。
その結果、書評の中立性にどのような影響が生じるのか書いている本人もワケがわからない関係にある点にご注意ください。


本書を通読した印象は「手堅い一冊」というものです。それは「基本」シリーズの編集方針でもありますから当然とも言えましょう。

・B/S、P/Lを用いた安全性分析、収益性分析
・損益分岐点分析(CVP分析)
・キャッシュフロー分析
・生産性分析
・株式投資分析

まで、経営分析の入門書として過不足のない内容です。

作者のベストセラーのひとつに 『餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるのか?』 があります。本書では実際に「餃子の王将」「ひらまつ」の事例を用いてどちらが儲かっているのかを検討し、そこからCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)の説明へつなげるくだりは、読者を引きつけるすばらしい構成になっています。

本書を読んでいて、一点、気になったことがあります。
CVP分析の項で上場企業の数値データを用いた解説があり、その資料中に「限界利益」と「固定費」の値が記載されています。
これらの値は勘定科目分析法で算出したものと思われますが、読者の理解のために算出過程の補足があった方が良かったのではないでしょうか。
初心者向けの書籍ということで敢えて記載を省略されたとも推察しますが、注記にすれば、初心者の理解を妨げずに中級者以上の理解の助けになると思います。

経営分析の類書として、私が以前からおすすめしているのは産業再生機構のCOOを務めた冨山和彦氏の 『IGPI流 経営分析のリアル・ノウハウ』 
(PHPビジネス新書)です。

財務指標から各社のビジネスモデルを解き明かしていく過程を、実例とともに解説し、章タイトルにあるように「数式の世界から人間ドラマの世界」が体験できます。

ただし、この冨山氏の著作では、財務指標に関する基本的な説明を省略していますので、その部分を補完する一冊として本書「経営分析の基本」は最適でしょう。

話は本書を離れますが、既にビジネス書の定番となっている日本実業出版社の「基本」シリーズは、実は大きな問題を抱えています。
それは・・・・・・・・

表紙の色が足りないのです。

20150423


このシンプルな表紙デザインが、実務書としての安心感を生み出しているのですが、シンプルであるがゆえに、色以外に調整の余地がなく、シリーズの増加にともなって使える色が不足していきます。

この問題は、私が「会計の基本」を執筆した4年前の時点でも既に顕在化しており、今回の「経営分析の基本」の藍色も「コンサルティングの基本」の青色に近いものになっています。

日本実業出版社はこの難問をどのようにして解決していくのか、今後の展開に注目しましょう!

(実際の印刷では色目の調整を繊細に行えるため、写真では似たように見えても実物はかなり違って見えます。 したがいまして、実物ベースでは、使える色にまだまだ余裕があるようです。)

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