書評

2017年7月27日 (木)

【書評】「国際会計の実像」 は会計史のゆげ塾だ!

本日は、杉本徳栄教授が著した
『国際会計の実像 -会計基準のコンバージェンスとIFRSsアドプション-』 (同文館出版)をご紹介します。

と申しながら、私が本書を購入したのは「会計・監査ジャーナル」 8月号の山田辰巳先生の書評を拝見したからでありまして、私の駄文を読むよりも山田先生の書評をお読みいただいた方が、本書の魅力が伝わることを冒頭にお断りしておきます。

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現物が届きましたが、全1280ページ 定価13,000円(!)の大著でとにかく厚いです。

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比較用に隣に並べた『法人税法基本通達 逐条解説(八訂版)』(1664ページ)と比べると実務家の皆さんにはイメージしやすいと思います(ちなみに、こちらは7,200円)。

しかし、物理的な「厚さ」だけではなく、本書の中身の「熱さ」は、帯文の「著者渾身の一冊」 とおりの充実した内容です。

はしがきから本書の特徴を引用しますと、
「本書は、会計は言うに及ばず、外交を含む政治、経済、法律などの全方位から「制度」を捉え、会計基準のコンバージェンスとIFRSsアドプションを余すところなくまとめあげ、その実像について描き出すことを試みたものである。」

EU市場におけるIFRS義務化から始まった会計基準の統合議論は、我が国においても会計領域を越えた大テーマとなり、2010年前後に、そのピークを迎えました。
当時の米国と日本の状況を主要事項とともに簡単に時系列で追っていくと、

2008年8月 米国・SEC「ロードマップ規則案」の公表
(Roadmap for the Potential Use of Financial Statemnet Prepared in Accordance with International Financial Reporting Standards by U.S.Issuers)

このロードマップ規則案をベースに、我が国の方向を示す意見書が公表され、
2009年6月 日本・金融庁「我が国における国際会計基準の取扱いに関する意見書(中間報告)」

その後、米国で
2010年2月 米国・SEC 「SEC声明」
(Commission Statement in Support of Convergence and Global Accounting Standards)
が公表されましたが、このSEC声明は、当初のロードマップ規則案よりもIFRS導入に距離を置いた内容になっていたため、この時点で日本の進行状況が米国を追い抜くような状態になってしまいました。

このころ、国内のIFRSブームがピークを迎え、強制適用時期を巡る議論も進みましたが、東日本大震災直後の2011年6月21日に、民主党政権下の自見庄三郎金融大臣の談話
「IFRS適用に関する検討について」が公表され、2015年3月期における強制適用が否定されます。
その後、IFRS任意適用企業が徐々に増加して現在に及んでいます。

我が国においては、この時の自見金融大臣の発言が大きなターニングポイントになっており、その過程について本書第14章で詳細な検証が行われています。

当時の自見氏の考えとして、本書では『日経ヴェリタス』の発言が引用されています。

「当時は内外の情勢を考えて拙速な判断を避ける狙いがあった。金融庁の事務方では方針を転換するのは難しかったので、私が悪人となって政治主導でやるしかなかった。」(本書 1147ページ)

そして、自見大臣の発言中に出てきている政治主導の流れが、我が国でどのようにして生まれてきたのかを郵政民営化問題まで遡って分析しています。

近年、ビジネス書の領域で歴史書のヒットが増えています。
その中でも、受験世界史専門の塾を主催している ゆげ塾 さんの一連の著作は、今まで学んできた世界史を異なる視点から切り取って提示してくれるので読者を飽きさせません。

本書は会計の専門書というよりも学術書の領域の書籍ですが、IFRSの歴史を多様な視点から読み解いているため、「ゆげ塾」さんのビジネスマン向け歴史書のように、そのボリュームと関係なく興味を持ち続けながら読み進められます。

最後に冒頭でご紹介した山田先生の書評からの引用でしめさせていただきます。

「著者が、本書を完成させるためにどれだけの膨大な時間を費やして資料を収集し、分析整理したかを思うと、その情熱には感動すら覚える。著者の努力に敬意を表したい。」(「会計・監査ジャーナル」2017年8月号137ページ)

P.S
当HPでのご案内が遅れてしまいましたが、丁度、今月、拙書 『この1冊ですべてわかる 会計の基本』 が12刷りとなりました。
増刷の都度、書籍内の推薦図書を見直しているのですが、今回の増刷時に本書をIFRSの推薦図書に入れることができなかったため、次回13刷の際に御紹介する予定です。(そう言いながら13刷に到達しなかった際にはご容赦ください)

【書評】「国際会計の実像」 は会計史のゆげ塾だ!

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2017年4月21日 (金)

書評 『不倫の教科書』と『損する結婚 儲かる結婚』

弁護士の長谷川裕雅先生から、新刊 『不倫の教科書 既婚男女の危機管理術』 を献本いただきました。

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長谷川先生は、ベストセラーとなった 『磯野家の相続』 シリーズをはじめとした相続に関する書籍を多く著していますが、もうひとつのシリーズとして男女間の法律関係を解説する書籍も定期的に刊行されています。

今回の新刊もセンセーショナルなタイトルになっていますが、前書きには、次のように本書の目的が書かれています。
「本書の目的は、不倫スキャンダルを興味本位で覗き見ることではありません。むしろ、不倫がいかにリスクの高いものであるかを具体的に指摘し、深い落とし穴にはまることのないよう警告することが目的の一つです。」

第1章に不倫トラブル事例、続く第2章は不倫のリスクマネジメント、最終の第3章には「それでも不倫をしてしまう人への7箇条」という構成になっており、法律の専門家として、不倫にまつわるリスクと対応策を判例とともに解説しています。

第2章「法律は不倫にきびしいのか」という節では、現行の法律だけではなく古代ギリシアなど古今東西の不倫に対する法制度の変遷が書かれているのですが、これが無茶苦茶にハードな内容になっておりまして、この部分を読まれるだけでも安易な不倫に対する抑止力を持つでしょう。

本誌と合わせて読みたい1冊が、ブログ『金融日記』で有名な藤沢数希氏の新刊 『損する結婚 儲かる離婚』です。

本書は
「結婚(そして潜在的に将来の離婚)という法的契約は、ひとつの金融商品の取引だと考えて分析すると、驚くほどその本質が理解できる」
という切り口で、離婚裁判の実際から離婚にかかる経済的コスト、さらには新しい婚姻制度の提案にまで言及しています。

離婚に係るコスト算出にあたり、両誌ともに引用している資料として家庭裁判所が公表している「養育費算定表」があります。

http://www.courts.go.jp/tokyo-f/vcms_lf/santeihyo.pdf

少し見づらい表ですが、縦軸に養育費または婚姻費用を支払う側(義務者)の年収、横軸には支払いを受ける側(権利者)の年収がとられており、この表から、離婚にともなる経済的リスクは年収の高い者、さらには両者の年収の差が大きいほど大きくなることがわかります。

両誌は、現在幸せな家庭を築かれている方であっても、転ばぬ先の杖、または軽率な行動を戒めるためにも有効な1冊です。

ただし、いずれの書籍も扇動的なタイトルになっていますので、うかつに表紙が見えるような形で家庭内(又はオフィス内)に放置しておくと、潜在的なリスクが顕在化する恐れがある点にご注意ください。

藤沢氏の著作は離婚という事象をファイナンスという視点から、長谷川氏の著作は法律という視点から解説しています。
このアプローチを拝借するならば、 「離婚の税金学」「不倫の会計学」といった企画が容易に思いつくところでありますが、この企画については私以上に適任の先生が多々(?)いらっしゃると思いますので、先達の皆様にお譲りさせていただきます。

(おまけ)
この2冊を読む時のBGMはこれしかありません。
Babyface & Tony Braxton の “Love Marriage & Divorce”

こんな甘い曲では、緊張感がでないという方は
Marvin Gaye の “Here My Dear”(邦題 『離婚伝説』)
がおすすめです。

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2017年3月14日 (火)

慶応4年3月14日に思いを馳せる -書評「西郷隆盛の明治」「大奥の女たちの明治維新」-

本日、3月14日は何の日でしょうか?

多くの方はホワイト・デー、一部の方は数学の日(円周率とアインシュタインの誕生日にちなんで)を連想されると思いますが、我が国の運命を決めた一日でもあります。

慶応4年3月14日、徳川家代表 勝海舟と新政府軍の東征大総督府参謀 西郷隆盛が江戸城開城についての条件を決定する会談が行われました。(この時代は旧暦のため、新暦では4月6日が正確な対応日になりますが、本日のネタということでご容赦ください)

両者の会談の結果、いわゆる江戸城無血開城が実現したのですが、この時の会談が決別し、翌15日に予定されていた江戸城総攻撃を決行されていたならば江戸は血の海に。さらに、欧州列強の干渉によって、我が国の独立も危うかったのではと言われています。

江戸城無血開城
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B1%9F%E6%88%B8%E9%96%8B%E5%9F%8E

慶応4年は西暦で1868年ですから、今年2017年は
大政奉還 150年 であり、
来年2018年(平成30年)は
明治維新 150年  の節目の年になります。

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そこで、本日、御紹介させていただく書籍は
  「西郷隆盛の明治」(洋泉社)

 「大奥の女たちの明治維新」(朝日新書)
                                     の2冊です。

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いずれも作者の 安藤優一郎氏から献本いただいたのですが、朝日新書、洋泉社と異なる出版社から同タイミングの出版であり、作者のご苦労が偲ばれるとともに、明治維新150年のビジネスチャンス(!)にかける歴史書編集者の鬼気迫る思いが伝わります。

私、日本史については門外漢なため(ちなみに共通一次試験の選択も世界史です)、本日は簡単に両誌のご紹介まで。

まず、 「西郷隆盛の明治」は、副題の「激動の10年を追う」にあるように、新政府樹立の立役者であった西郷が、その後、西南戦争によって自決するまでの経緯をまとめています。
教科書では征韓論による政府内の対立が原因と学びましたが、本書で詳細を追っていくと、組織を率いるリーダーのジレンマが、このような悲劇をうんでしまったことがわかります。

もう1冊の 「大奥の女たちの明治維新」 の副題は 「幕臣、豪商、大名―敗者のその後」となっています。
明治維新となると坂本、西郷、勝といった維新の英雄を取り上げる書籍が多い中、本書では明治維新によって敗者側に追い込まれた人々が、その後、明治の時代をどのように生き抜いていったかに焦点をあてています。

大奥篤姫をはじめ徳川家の子孫達の生き様や、江戸から東京にかわった庶民の生活を、様々な文献から探っています。
その中で、女性運動家 山川菊栄氏が母 青山千世氏の見聞を記録した『おんな二代の記』(平凡社東洋文庫)から、前述した西郷隆盛に関する以下の記述が引用されています。

「そのころの西郷の人気はたいしたもので、―というのが、いろいろの意味での個人的不平や社会的不安がそこに大きなはけ口を見出したからでしょうー何がなんでも西郷さんが出なくてはだめだ、どうでも西郷さんに勝たせたい、という声ばかり。」 (p197)

「御茶ノ水の寄宿舎でも、西南戦争は興奮の渦をまき起こし、毎朝の新聞は奪いあいで、「西郷さんに勝ってもらわなければ」、「西郷さんが負けたらどうしよう」という声が高かったものです。いったい西郷さんが勝ったら日本がどうなるのか、どんな政府ができて、どんな政治が行われるのか、誰もそんなことは考えていなかったらしい、と晩年の千世は笑っていました。」 (p200)

これに似た風景は、現代でも多々見受けられるのではないでしょうか。

【追記】
最後になって冒頭のネタに戻りますが、本日紹介すべき書籍は、こちらが適切だったかもしれません。

円周率1000000桁表

当著作の詳細については、このブログをご参照ください。


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2016年8月30日 (火)

 書評『マンガできちんとわかる!遺産相続と手続き』 ―マンガ以外の部分が勝負―

弁護士の長谷川裕雅先生 から、新刊 『マンガできちんとわかる! 遺産相続と手続き』 を献本いただきました。

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長谷川先生は、ベストセラーとなった 『磯野家の相続』 シリーズをはじめ、相続に関して既に多くの書籍を著していますが、今回はビジネス書の時流にのったビジネスコミックを刊行されました。

近年、ビジネス書籍の「マンガ化」は大きな潮流となっています。
拙書 『マンガでやさしくわかる決算書』 も、発売から1年半で8刷に及んでおり、従来書籍との動きの違いを実感しているところです。

書評の前に、ビジネスコミックの分類からお話しておきましょう。
ビジネスコミックは大きく下記の3種類に分けられます。
・全マンガ … 全ページがマンガ
・マンガ半分以上 …  全ページに占めるマンガの割合が文章より多い
・マンガ半分以下 …  全ページに占める文章の割合がマンガより多い

会計ジャンルのビジネスコミックにあてはめてみると、
全マンガ…國貞克則著 『超高速 会計勉強法』
マンガ半分以上
…小宮一慶 著 『決算書速習教室』
            (マンガ110ページ/全189ページ)
マンガ半分以下…岩谷誠治 著 『マンガでやさしくわかる決算書』
             (マンガ100ページ/全227ページ)
のように対応します。

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当然、マンガの量が多いほど初心者向けの入門書になりますが、単純に書籍の難易度によってマンガの量が決まるわけではありません。
マンガは1ページの原価が高いため、企画段階でページ数が決定されます。つまり、マンガの量は各シリーズごとに所与であり著者の意向で変更できるものではないのです。
そこで、ビジネスコミックの著者(及び編集者)は、与えられたフォーマットの中でどのように表現していくかに知恵をしぼります。

このような事前知識を持ったうえで本書を見ていくと、本書は全223ページのうち純粋なマンガ部分は67ページしかありません。しかし、親しみやすいイラスを用いるとともに文書部分のほとんどに図表を入れることで初心者向けの書籍であることをアピールしています。

マンガや図表を増やすと、親しみやすくて初心者も手をとりやすいというメリットがある反面、しっかりした内容を伝えづらいという欠点も生じます。

会計書籍の場合、会計知識を導入するための1冊目の入門書として割切った編集も可能ですが、相続関係の書籍の場合は、人生に数度しかないできごとであり、複数の書籍で順番に学んでいこうという読者は稀ですから、入門書でありながら実務書の内容を伝えるという矛盾した要求にこたえなければなりません。

そこで、実務に対応できる書籍にするために、著者がとった方法のひとつが冒頭にある書き込み式の図表です。

本書の冒頭には、
「相続手続きのスケジュール表」
「財産リスト」
「相続税計算シート」
「特別従駅・寄与分リスト」

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が用意されています。この図表を冒頭に持ってきたことで、相続にまつわる概要を伝えるだけではなく実務書として利用できることがわかります。

初心者を意識して「やわらかい」マンガを用いながら、実際の相続手続きを完結させるという難問に、うまく挑戦した1冊と言えましょう。

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2016年6月30日 (木)

【書評】「金融パーソンが押さえておくべき 相続・事業承継のツボ」

TAO税理士法人の金谷亮先生から、新刊 『金融パーソンが押さえておくべき 相続・事業承継のツボ』 (以降「承継のツボ」)を献本いただきました。

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相続税の基礎控除額引き下げを契機に、業界の内外で相続ビジネスが盛り上がっています。
その中でも、相続・事業承継といった事案にもっとも近いところで活動されているのが金融機関の営業担当者の方々でしょう。

そこで、本書は、金融機関の営業担当者を対象に、相続・事業承継対策のポイントとなる「ツボ」を解説するものです。

全体は4章で構成されています。
第1章 つぼのツボ
第2章 資産承継のツボ
第3章 提案発想のツボ
第4章 提案実践のツボ
(巻末資料) 平成28年度税制改正のツボ

まず、第1章で総論と本書の利用法、第2章で相続・事業承継に関する基本知識を解説します。
続く第3章は、顧客のニーズごとに金融機関が提案できる個別手法の解説、
最後の第4章は具体的な事例を取り上げています。

実は、金融関係者をターゲットにした相続の指南書は、既に結構な種類が刊行されています。
しかし、この手の書籍は、新しい税制改正がセールストークの肝になりますから、最新の税制改正を織り込んだ書籍を使わなければ意味がありません。
その点において本書が類書に対して決定的なアドバンテージを有しているのは明らかです。

そこで今回は、資産税を専門に活動されている税理士法人タクトコンサルティングが、税理士向けに執筆した「税理士なら知っておきたい 事業承継対策の法務・税務Q&A」 (以降「承継QA」)

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を比較対象とし、読者対象による編集手法の違いをみていきましょう。

会計・税務書籍において専門家向けと一般読者向けの最大の違いは、 
  ・根拠条文の併記
  ・仕訳の有無

の2点になります。

専門家を対象とする「承継QA」では、本文中に根拠条文が併記されているのに対して、「承継のツボ」には根拠条文は一切でてきません。
同様に、「承継QA」には、本文中のところどころで仕訳が使われていますが、「承継のツボ」には仕訳はまったく出てきません。

次に、個別論点ごとの記述内容を比較してみましょう。
事業承継の基本論点となる「非上場株式の評価方法」を見ていきます。
非上場株式の評価にあたっては、
  論点1 3種類の評価方法
  論点2  同族株主か否か
   論点3 会社規模による適用分類
という3つの論点が存在します。

当然のことながら、専門家を対象とする「承継QA」では、各項目ごとに根拠条文を織り交ぜながら詳細な説明がなされており、延べ50ページに渡って説明しています。
専門家であっても50ページの文章を読みこなすのは難しいため、主要論点を個別にQ&Aという形で抽出することで読みやすさにも配慮しています。

一方、「承継のツボ」では、論点1については各計算方式ごとの説明、論点3については評価明細書を用いた説明があるものの、論点2の同族株主については、「同族株主」という単語自体、使われておらず

「中小企業の多くは身近な親族で保有しているケースがほとんどです。オーナー経営者や後継者の保有する株式の評価は原則的な評価方法が適用される、というイメージが大切です」(「承継のツボ」p65)

という記述にとどめています。
中途半端に「同族株主」の論点に言及せずに、読者の理解度を優先した割切りが感じられます。

定義類の省略を補うために「よくある実務での勘違い」という項を設け、実務上の留意点については、別途、補足する工夫もされています。

また、「承継のツボ」では、アドバイスの対象となる資産家を「キャッシュ・リッチ」「土地持ち」「実業家」の3種類に区分し、各種法の説明ごとに適用対象となる資産家の種類をイラストを用いて表示しています。

一般読者向けの書籍においては、詳細や正確さを追うのではなく、このような「読みやすさ」への配慮が大切であり、その点において「承継のツボ」は、よく考えて編集されています。

自分も専門家のため、通常、専門書を読んでいても特段の違和感はないのですが、一般向けと専門家向けの2冊をあらためて読み比べてみると両者の違いは歴然です。
やはり、専門書を一般の方が読みこなすのは、かなり難しい作業になるため「承継のツボ」のように、一般読者と専門知識の橋渡しをする書籍の存在は貴重でありましょう。

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2016年4月 1日 (金)

【書評】『決算早期化の実務マニュアル 第2版』

武田雄治先生から、新刊 『決算早期化の実務マニュアル 第2版』 (以降「第2版」)を献本いただきました。

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本書は、2009年の 『決算早期化の仕組みと実務』 をバージョンアップして2012年に刊行した 『決算早期化の実務マニュアル』 (以降「初版」)の改訂版にあたります。

したがいまして、今回の書評では第2版初版からどれだけ変わったのかに注目してみました。

何よりも変わったのは「まえがき」です。まえがきは本文と関係ないと思われる読者の方も多いと思いますが、作者の思いが吐露されるのが「まえがき」であり、「まえがき」を読めば作者の熱量がわかるのです。

第2版の「まえがき」に次のような記述があります。

「そして、筆者の決算早期化コンサルティングも、単に決算短針の発表日を前倒しするというプロジェクトの枠を超え、「真の経理部」の仕組みを構築し、経営に貢献できる経理部、企業価値の向上に貢献できる経理部を作るという内容に変わってきました。」

この一文が、第2版の特徴を表わしています。第2版では、単に決算早期化のノウハウを提供するだけではなく、経理部のあり方まで射程が広げられています。
初版では、経理部を「情報製造業」と定義していたのに対して、第2版では「情報製造業」の先の「サービス業」を目指すべきと主張しています。

単に数字を集計するだけではなく、 「各利害関係者に対する「サービス業」へと進化させなければならない」 (第2版p112)という方向性は、IFRS導入によって定性情報が増加しているという外的環境の変化ともフィットするものです。

各章の個別の手法についても、初版をベースにブラッシュアップが図られています。
その中で私が注目したのは、初版にはなかった「連結エクセル化」というアプローチです。これは、連結子会社数が少ないのならば連結専用ソフトを使うのではなく、積極的にエクセル化を勧めるものです。
子会社数やセグメントが増加した場合には連結専用ソフトを使わざるをえませんが、子会社数が少ない場合には、本書が指摘しているようにエクセルの方が効率的なケースは散見されます。
しかし、エクセルの使用を積極的に勧めるところまで踏み込んで記述するのは経験の裏付けがなければできない論点です。

本書を読んでいて、ひとつだけ気になった点があります。
150ページに資料データのファイル名を統一する手法が説明されています。
ファイル名を決算期、リファレンスナンバー、資料名といった属性ごとに決まった順序で命名することを勧めており、その例示の中でファイル名の属性の区切りに「半角スペース」が使われています。
ファイル名の検索やUnix環境でのファイルバックアップなどを考慮した場合、ファイル名に「スペース」は使わずに「_ (アンダーバー)」等を使用した方が良いでしょう(私のようなロートルSEの老婆心ではありますが)。

読者の皆さんが知りたいことは
「初版を持っているんだけど、第2版を買いなおす必要はあるのか?」
という論点かと推察します。
その結論は、
「当然、買っておきましょう」
ということです。

1冊2,500円なら、経理部員2時間分の残業代で回収できるんですから!

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2016年3月10日 (木)

書評『女騎士、経理になる。』 

先日、らくからちゃ氏のブログ 「ゆとりずむ」Rootport 氏 の著作 『女騎士、経理になる。』が紹介されネット上の話題になりました。
そこで、今回は、本書『女騎士、経理になる。』を取り上げてみましょう。

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(Disclaimer)
評者である私自身も同類の会計コミックを上梓しているため、書評の中立性に問題が生じる恐れがあります。

本書は、Rootport氏のツィートを原作としてコミック化したもので、 『ファンタジー』『会計』 の融合という革新的なアプローチがとられています。

私のような中年オヤジにとっては、『ファンタジー』系のストーリーや絵柄がちょっと厳しいのですが(お恥ずかしい話ですが、文中に出てくる「オーク」や「エルフ」といった単語が固有名詞なのか一般名詞なのかがわかりません)、話のところどころに挿入された会計ネタの面白さは、ツウをうならせるものです。

『ファンタジー』と『会計』の融合という点でも破たんなくまとめられており、その切れ味はかつての名番組『カノッサの屈辱』を思い起こさせます(このネタがわかること自体、相応の年齢)。

私も、かつてビジネスコミックを製作したことがあるのですが、その経験から、本書の中で一番共感したのはあとがきに書かれている作画担当の三ツ矢彰氏への謝辞です

「最後に、最大の賛辞を作画担当の三ツ矢彰先生に送りたい。私の乏しい語彙では、この気持ちを伝えるのに十分な言葉がみつからない。」

本当に、マンガ家の方々の才能というか能力はすごいものがあります。
その製作過程を拝見すると「最初のこれが、最後には、こんな形になるのか!」と感心しきりです。
今回の作品もRootport氏の原作の面白さだけでなく、それをコミックとしてまとめあげた作画担当の三ツ矢彰氏(または途中に協力されたシナリオライターの方も含め)の尽力の賜でしょう。

ストーリーで会計を教えるというアプローチは、既に山田真哉氏の「女子大生会計士の事件簿」シリーズや林總氏の「餃子屋とフレンチ」シリーズが偉大な実績を残しておりますが、「ファンタジー」と「会計」を融合したRootport氏の革新性に、我々(勝手に一緒にするな!)会計士は立ち向かうことができるのでしょうか?

そこで(?)私も「革新性」という点においては会計史上に残るであろう新作を用意いたしました。

『矢印を目でなぞるだけ! 一瞬でわかる決算書の読み方』
(まだ、書影も作者名も入ってませんが、私の作品です)

おいおい「12歳」とか「2時間」でわかるの次は「一瞬」かよ!

「目でなぞる」んじゃなくて「目で追う」だろう!

と鼻白む読者の皆様の顔が思い浮かびますが、次回作はかけねなしに「一瞬」で決算書が読めてしまいます。
そのために、 「B/S似顔絵分析法」 に続く新しい方法論を開発しました。
Photo

その秘密の封印が解かれるのは3月23日です!
こうご期待ください!

(ということで、今回は書評から無理やり、自作のティーザー広告に持ち込んでしまいましたが、刊行2週間前ということでご勘弁)

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2016年3月 9日 (水)

書評『管理会計の理論と実務(第2版)』

中央経済社から日本大学商学部教授 川野克典氏の新刊 『管理会計の理論と実務(第2版)』 を献本いただきました。 本日は、この骨太の1冊をレビューしたいと思います。

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(Disclaimer)
作者である川野氏は、私のコンサルティングファーム時代の上司でありまして、下手な書評は書けないという緊張感(?)が生じております。

本書は2012年に刊行された同名書籍の改訂版です。 前書きにあるように「理論と実務の橋渡し」となることを目的とし、管理会計の理論を説明するだけではなく、実務における適用事例や課題をまとめています。

たとえば、次のような文中の簡単な一言も、実経験の裏付けがなければ書けないものであり、読者にとって参考になります。

「(原価計算の)差異分析の中でも、製造間接費の分析は、二分法、三分法、四分法が存在するが、そのいずれの分析も無意味と考えている実務家は多い」 (45ページ)

「ABCは、誕生初期においてすべての間接費を割り付けできると誤解された。筆者もコンサルタントの時、顧客にABCによりすべての間接費を割り付けできると説明していた時期がある」(104ページ 注書)


また、作者は管理会計の理論上のベースとなる原価計算基準の現状との乖離について強い問題意識を有しており、第5章「原価計算基準の陳腐化」、第18章「会計基準に対応した日本企業の管理会計の変革」において原価計算基準の改訂を提言しています。

そこで、今回、比較対象としてとりあげるのは清水孝氏の『現場で使える原価計算』 (以降「比較書」)です。


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比較書の特徴は、2011年に上場製造業に対して行った質問票調査の結果にもとづき、原価計算実務の現状を伝える点にあります。

たとえば、地味ではあるが現場担当者を悩ませる論点として材料副費の処理があります。

それに対して以下のような調査結果が提示されるため、自社の処理方針を決める際の参考になります。

材料の購入原価に含める材料副費の範囲(複数回答あり)
①すべての外部副費  93社
②一部の外部副費   57社
③すべての内部副費  17社
④一部の内部副費   31社
⑤材料副費は材料の購入原価に算入していない 42社
 無回答 4社
(比較書 28ページ 図表2‐6より抜粋)


原価計算書籍の多くは、理論の説明を中心にしたものが多いため、実務の状況を俯瞰できる書籍は貴重です。

今回、比較書をあらためて読み直したところ、以下のような記述があることに気付きました。

「川野(2008)は、『基準』が答申された時代と比較し、手作業から機械中心の生産方式への変化、対象生産から多品種少量生産への変化、研究開発費等の間接費の増加、ITの進展、生産・販売・研究開発等の分野における日本企業のグローバル展開、非製造業やソフトウェア業の拡大などを示した上で、『基準』はこれら応えられず、『基準』にとらわれない原価計算をする必要があると指摘している」 (比較書 16ページより引用)

作者の清水氏は、川野氏の問題提起に対する回答を提示することが調査のきっかけになったと書いています。

評者である私自身は、アカデミックからほど遠く実務一辺倒で働いているため、学術上の理論を軽んじがちなのですが、アカデミック領域の方々の地道な努力が実務のバックボーンになっていることに改めて気付かされました。

今回の2冊は、合わせて読むことで、自社の原価計算の在り方について見直すきっかけが得られるでしょう。

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2015年12月 8日 (火)

書評『ITエンジニアとして生き残るための会計の知識』とSE本の興亡

公認会計士の原 幹先生 から、新刊の 『ITエンジニアとして生き残るための会計の知識』 (日経BP社)を献本いただきました。

先日、書評を掲載した『「クラウド会計」が経理を変える!』 が9月の発売ですから、立て続けの刊行になります。

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(Disclaimer)
評者である私自身も同類の会計書籍を上梓しているため、書評の中立性に問題が生じる恐れがあります。
ということで、今回は、少し書評を離れSE向けの会計本の歴史を紐解いていきましょう。


SE(システムエンジニア)は1980年ごろ、電子計算機の普及にあわせて広がった職種です。
SE向けの書籍の中心は開発言語を解説した技術書だったのですが、徐々にビジネス書に近い領域の書籍が増え始めました。

その萌芽となったのが、ワインバーグの一連の書籍です。



その後、情報システムの発展にともなって従事者も増加し、SE向けの書籍がビジネス書の中でも一定の需要を生み、「SE本」と呼ばれるジャンルが生まれてきました。

私が、SE本における会計書籍のターニングポイントと考えるのは、 2001年に小橋淳一氏が著した 「経理・財務知識の再入門講座」 のヒットです。



私が本書を手にとったのは、システム開発の現場を離れ既に公認会計士になってからですが、自分が新人SEのころにこのような本があれば良かったのになあと思わせる内容でした。

本書が、それまでの会計書籍と違ったのは、単に会計知識を伝えるのではなく業務のプロセス、つまり業務知識として伝えている点です。

この書籍の成功後、SE向けに様々な業務知識を解説した書籍が増え、SE本のジャンルが広がっていきます。

書籍だけではなく、このころはSE向けの雑誌も隆盛であり、雑誌の連載を書籍化したものも多く生まれました。
DB Magazineに連載を続けていた梅田弘之氏の一連の著作は、現在でも参考になります。

この2000年代の前半が、SE本のピークと思われます。
その勢いに便乗して、私も2006年に 『超図解 新人SEのための会計&業務の基礎知識』 を刊行しました。

しかし、この本は現在では入手できません。
それは、絶版になったからではなく、発売直後の2007年に出版元のエクスメディア社が倒産してしまったからです。
エクスメディア社はパソコンユーザー向けの超図解シリーズで躍進した出版社でしたが、Windows95から始まったパソコンブームも次第に沈静化していき、新たな需要を築けませんでした。
(なお、エクスメディア社は出版社にもかかわらず、社内にデザイン室があるなど編集手法が独特で、著者としては大変、勉強になりました。)

パソコンがコモデティ化して行くのと並行して、エンタープライズ向けのシステム構築も従来の受託開発からSAP等のERPを用いたパッケージ開発に移行していきます。
この地殻変動にともなってSEを冠した書籍は徐々に減少し、最近ではITエンジニアやITコンサルタントといった名称に置換えられていきました。

2000年代には
COMPUTER WORLD(IDGジャパン)
IT アーキテクト (IDGジャパン)
月刊 コンピュートピア (コンピュータエージ社)
Software People (技術評論社)

といった開発者向けの書籍が多くありましたが、現在は既に廃刊しています。日経BP社の発行していた「IT プロッフェショナル」誌が「日経システム構築」誌と統合して「日経SYSTEMS」に生まれ変わるなど、銀行業界同様の再編もありました。

現在では、かつてのSE本ジャンルの会計書の出版は減少しており、私の手許にあるものとしては、

2012年に吉田延史氏が刊行された「 ITエンジニアのための会計知識41のきほん」(インプレスジャパン) が最新の作品になっています。
(なお、本書では、最後のコラム 「ステップアップのための書籍紹介 」で拙書 「会計の基本」 を推薦していただいています。この場をお借りして御礼申し上げます)


無駄に長い前フリから、評書の解説に戻ります。

評書も、これまでのSE向け会計本と同様に、最初に会計の基本的知識を、次に会計業務のプロセス会計システムの機能と関連付けながら解説していきます。
本書の特色は後半にあります。

第5章では、 「顧客向けITプロジェクト」 参画時に必要な知識として ・原価計算 ・売上の計上、工事進行基準 ・プロジェクト別損益 を解説。

第6章では、 個々のプロジェクトからさらに一歩進み、 「事業計画」 作成に必要な知識として 事業計画の作成手順 ・KPIとなる財務指標を紹介。

最後の第7章 では「社内IT投資」に必要な会計知識として投資の効果測定にまで言及しています。

本書は、SE本の系譜を継ぐ書籍として十分な内容を持つだけではなく、現代のITエンジニア、ITコンサルタントの業務領域までを抑えた書籍と言えるでしょう。

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2015年11月25日 (水)

書評『「クラウド会計」が経理を変える!』の掲載

今週刊行された 『旬刊 経理情報』 12月1日号の書評欄において、 原 幹先生 が執筆された 『「クラウド会計」が経理を変える!』



の書評を寄稿しました。


201511251


(原先生は現在、同誌で「IFRSシステム整備の勘所」という連載も執筆されています)

経理関係の専門書ではありますが、部門で購入されている会社も多いと思いますので、お手許にございましたら御一読いただければ幸いです。

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